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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ 紅の翼が、どさりと地に堕ちた。 その音にシンは慌ててデスティニーへと視線を戻す。直撃こそしなかったものの、炎の壁を破ってきたこともあっ てかすぐには立ち上がれないようだった。 「よォ、どうだ? サイコーな気分だろ?」 「お前と一緒にするな。しかし認めなければならないようだ」 卑しい笑みを向けるシャドウを一瞥し、黒いデスティニーはよろよろと立ち上がるデスティニーを睨みつける。 「この耐え難い不快感、抑え切れない衝動……なるほどな、嫌というほどに自分という存在を思い知ってしまう」 「お前の好きにすりゃあいい。『汝の欲することを成せ』、ってな」 「言われなくてもそうさせてもらう」 両肩から漆黒のフラッシュエッジを引き抜かれた。サーベル状に光の刃が伸び、鋭利な輝きを放つ。 「う……」 足元をふらつかせながらデスティニーは呆然としながらゆっくりと近づいてくる影を見つめていた。 シンと同じく、信じられないもの見たというように目を見開いて。 トン、と軽く地を蹴ると同時に黒い翼が広がり、地面を滑るように飛んだ。刹那の間にデスティニーにを間合い の内に捉えた二つの刃が光の弧を描く。 「っ!?」 我に返ったデスティニーがアロンダイトでフラッシュエッジを受け止める。 本来ならばビームの粒子同士が干渉することはないのだが、この世界でのビームは物理魔法に類似するもの となったためにこのような現象が起こるのだった。 突進の勢いは殺されることなく、二体は鍔迫り合いの状態のまま天窓の近くまで昇っていった。 「デス子っ!?」 「アイツを心配してる余裕があんのかァ? テメェだって変わんねェだろうがッ!」 ハッとシンが視線を戻した瞬間、旋風のような蹴りが飛んできた。上体を反らしてギリギリのところで直撃を免れたシンの前髪が数本散る。 「コイツっ!」 「なァに睨んでやがる。こんなときに余所見してる方が悪いんだろ!?」 癇に障る笑い声をあげながらシャドウはさらに手数を増していく。上下左右、あらゆる場所から自在に振るわれ る刃に怖気すら感じつつシンは紙一重という危うい状態で避け続けていた。 「なら、これでっ……!」 間合いを取るために背後へと飛びながらシンはベルトからダガーを抜き撃つ。瞬時に放たれた刃は動きの止まったシャドウの眉間に向かって突き進み、 ――空中で止まった。 「ハッ、残念だった……!?」 左手の二指でダガーを挟み取ったシャドウの言葉が途切れ、頭を仰け反らせた。 ……シンはダガーを二本持っていた。うち一本をバックステップしつつ投げ、そのまま手首のスナップを利かせ て二本目を連続して放ったのだ。 相手の動きが止まった瞬間を狙い、一本目を防いだ直後の油断を突いた連撃。本命である二本目を顔面から 生やしたシャドウはゆっくりと仰向けに倒れていく。 「これでっ!」 「――ひまった(決まった)、ってか?」 倒れかかったシャドウの上半身がピタリと止まり、弾かれたバネのように跳ね戻った。顔に突き立ったかと思わ れたダガーは歯の間に挟まれ、プラプラと揺れていた。 「おふぃかった(惜しかった)、なァ!」 ブッ! と吹き出されたダガーが今度はシンに向かって飛ぶ。首を振って避けたシンに肉薄したシャドウが叩き つけるように黒刃を振り、掲げられた白刃と火花を散らす。 「なかなかイイ線いってたな。けどまだ足りねェ、もっともっとお前の憎しみをぶつけて来い! もっと! もっとだ! もっともっともっともっともっとォ!!」 「くっ……!」 ギリギリと押し付けられる刃に抗いながら、シンは目の前で哂う相手を倒す方法を必死に考え続けていた。 ――シンとシャドウの頭上、燃え盛る壁から舞い散る火の粉を浴びながら二体のデスティニーたちもまた激戦を繰り広げていた。 紅と漆黒の翼が交差する度に光が弾け、時折赤や緑の光芒が放たれる。 「……フン、大剣に頼り切った粗雑な攻撃だ。動きに無駄がありすぎる」 振り下ろされたアロンダイトを最小限の動きで避け、黒いデスティニーはフラッシュエッジでその間隙を切り裂く。 針の穴を通すような正確な反撃に徐々にではあるがデスティニーの装甲に傷が目立ち始め、生身の部分から は血のように淡い光が飛び散っていた。 何合目かの打ち合いの最中、痛みからか顔をしかめながらデスティニーは叫んだ。 「っ、どうしてこんな……貴方はいったい!?」 「説明の必要などないはずだ。お前にも分かることだろう? それとも認めたくないだけか!」 光の刃を互いに押し合わせたまま膠着状態が続いていたが、表情を変えないまま黒いデスティニーは相手を 蹴り飛ばして右手のフラッシュエッジを投げつける。 「何の話を……」 ビームのブーメランを避けた先を狙い、黒いデスティニーはビームライフルを連射する。完全に防戦一方となったデスティニーはビームシールドを展開しながら放たれ続ける光の雨をなんとか凌いでいた。 「まだとぼけるか。それとも本当に分からないのか……まぁいい」 わずかに眉間に歪めながら、黒いデスティニーは高エネルギービーム砲を展開する。 「それでも構わん。私は私の存在を証明するだけだ……貴様を完全に破壊してな!」 砲口に光が集束し、放たれる。赤く輝く光の束はビームシールドに直撃し、デスティニーはその場に縫い付け られたように動きを止めた。 「このっ!」 反撃の糸口を作り出そうと自身もビームライフルに手を伸ばしたデスティニーだったが、突然襲いかかった 背後からの衝撃に空中でバランスを崩した。 「え……?」 唖然とするデスティニーの視界に飛び込んできたのは回転しながら主の元へと戻っていく光の輪、そして砕け た自身の羽根の一部だった。 「――散れ」 再び両手に刃を携えた黒い影が躍り出た。 ――どうする? 変幻自在に襲いかかってくる黒刃を避け、受け、弾きながらシンは自問する。 ――こっちに残った得物はナイフ1、ベルトのダガー2、左の袖に隠してる投げナイフ1……相手は手持ちの ナイフだけ。だけどまだ魔法を温存してる。 シンの背中に悪寒が走る。こめかみを掠めていった刃の冷たさではなく、相手がまだ余力を残しながら自分を 翻弄していることに気付いたからだ。 既にシンの身体はかなりの傷ができていた。対してシャドウは無傷、シンのナイフはその影すらも捉えられずにいた。 ――こっちの癖まで読まれてる……? そこでシンは自身の中で膨らみかけた疑惑を押し殺した。 過度な思案は動きを鈍らせる。まして今考えても仕方がないことに思考を割くわけにはいかない。 この場で求めなければならないことは、どう凌ぐか、どう倒すか、どう逃げるか。 既にシンの頭の中に逃亡の案はなかった。目の前の相手は、どうしても倒さなければならない相手だと本能が 訴えていたからだった。 「ハッ、悩め悩め。考えるのをやめちまったら頭と身体が別れ話始めちまうぞォっ!」 挑発と共に鋭い中段蹴りが飛んでくる。肘と膝で蹴り脚上下からを挟むように受け止めたシンだったが、衝撃を 殺しきれずに弾き飛ばされてしまう。 「ぐっ……!?」 「まァ、考えたところでどうしようもないもんはどうしようもないけどな」 口の端を吊り上げながらシャドウはクルクルとナイフを弄ぶ。その態度には変わらぬ余裕があった。 油断。目的までは分からないものの、シャドウはシンをすぐに殺すつもりはないようだった。強者が弱者を相手 に自らの力を誇示するかのように、じわじわと痛めつけている。 隙があるとすればそこだ。自らの優位を疑わない心理には必ず死角ができる。 そして、シンが勝てる要素があるとするならもうひとつ。 ――あのときの感覚。 連合の大型MAと戦ったときに掴んだあの感覚。そしてフリーダムを倒したときにも生じたあの感覚。 周囲に意識が広がり、敵MSの細かい挙動まで感じ取ることができた、あの感覚。 ――あれが、あれさえ来ればコイツにだって……! あくまで仮定の話だ。そもそもMSに乗っていたときにしかその状態になったことがないのだ、生身でも同じよう になるのかはシン自身にさえ分かっていない。 だが、そんな不確定なものにも頼らなければならないほどにシャドウは強かった。 「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」 シンは雄叫びを上げて強引に攻め込む。五体すべてを総動員した連撃、さすがのシャドウもこのすべてを避け ることはできずに身を守ることに徹した。 一転して攻勢、しかしシンは余裕を実感することなくシャドウが握るナイフの動きに集中する。 攻めるにしろ守るにしろこの動きを見逃してしまったが最後、すぐに勝負は決まってしまう。シンにとって最悪の形となって。 「ハッ! 盛り上がってきたじゃねェか。だがァ……」 突き出された白刃と黒刃が交差し、動きを止めた。シャドウのナイフ、奇妙に折れ曲がった中心の内側にシン のナイフが絡み取られたのだ。 「はしゃぎすぎるとこうなっちまうんだぜっ!」 ブン! とナイフが振られ、絡まったナイフごとシンの身体が引っ張られてバランスを崩した。 「くっ……!?」 背中に冷汗が浮かぶのを感じながらもシンはシャドウのナイフから目を離さなかった。不利な体勢とはいえ、 最悪腕一本を犠牲にすればこの窮地は避けることが出来る。 だからこそ、シンは視線をシャドウのナイフに集中させたのだ。 だが、 ――動かない? この決定的とも言える隙を前にしてシャドウは動かなかった。 微動だにしない右腕、まるで動きを悟られないためにじっとしているかのような…… そこでシンは気付いた。視界の端、唯一動きを見せていたシャドウの左手。 その中に握られた、小さな刃に。 ――あれは、俺の……? 紛れもなく、シンのベルトに差してあったスローイングダガーの一本。おそらくは先程の連投、二本のうち左手 の二指に止められた一本。 「――首、もらったぜ?」 シャドウの呟きを聞いたシンは反射的に首を守ろうと両腕を交差しようとし、一瞬早く、鮮血が舞った。 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ 迫り来る二つの光刃を見た瞬間、デスティニーは空中で『故意に』転倒した。 スラスターを閉じ、翼も畳んだ状態でビームシールドを展開、フラッシュエッジの一閃を受け止め た反動でデスティニーは後ろに弾き飛ばされ、重力に従って地面へと落下する。 「チッ!」 黒いデスティニーは舌打ちする。一の太刀を避けた先に二の太刀を叩き込んで止めを刺すつも りだったのだが、このような避け方をされてはそれも不可能だ。 しかしこれはデスティニーにとっては最悪一歩手前の状態。すれすれでブレーキをかけたようだ が、それでも地面に叩きつけられた衝撃で苦しそうに呻いていた。 「……小賢しい真似を」 不快そうに眉根を歪めながら黒いデスティニーはフラッシュエッジを収め、漆黒の大剣を引き抜く。 対艦刀という名の示す通り、アロンダイトは対MSの武装とは言い難い。まして対艦刀の中でもと りわけ大型な、あまりにも大雑把すぎるその刃は凄まじい威力を発揮する反面一撃毎の隙が大きすぎるのだ。 しかし、その無理を押し通すことが出来てこそ最強のMSの一角と呼ばれる所以である。 翼を展開し、構えは刺突。最大加速で身動きの取れないデスティニーを貫こうと翼の先端から光が漏れ…… 「――?」 目標の様子が妙なことに気付き、黒いデスティニーは動きを止めた。 デスティニーは地面に倒れたまま、あらぬ方向を向いて大きく目を見開いていた。 口は半開きのまま痙攣するように開閉し、小刻みに身体も震えている。 何を見ているのか、目だけを動かして黒いデスティニーはデスティニーの視線を辿る。 「……そういうことか」 無感情に呟きながら、黒いデスティニーもシャドウとシンの戦いの決着を悟った。 小さな刃が皮を裂き、肉を貫く。 シャドウの宣言に反射的に両腕を首の防御に回したシンだったが、その動きは半秒ほど遅かった。 スローイングダガーは両腕をくぐり抜け、首筋へと向かい…… すんでのところで軌道を変え、右肩に突き立てられた。 刺さった衝撃でシンの身体が後ろに傾いたところで足を払われて転倒する。地面に叩きつけられ る瞬間にナイフがさらに押し込まれ、切っ先が間接の間に捻じ込まれた。 「ぐっ……!」 喉から飛び出しそうになった絶叫を噛み殺し、シンは胸中で自分に問いかける。 ――何故だ? あきらかに止めを刺せるタイミングだった。だというのに 刃は強引に標的を首から肩へと移したのだ。 安堵よりも疑念がシンの中で膨れ上がる。同時に目の前で亀裂のような笑みを浮かべる相手に 底知れぬ『何か』を感じ取っていた。 「……お前、どうして」 「ヒャハハハハハハハ! つまんねェだろうがよ、この程度で終わっちまうのは!」 「こ、のっ……!」 激痛に耐えながらシンはシャドウの脇腹に蹴りを打ち込む。マウントを取られた状態だったため 威力こそ得られなかったが、シャドウの体勢を崩すだけなら十分だった。浮いた片足の隙間を 強引にこじ開け、地面を転がりながらシャドウから距離を取る。 「ハッ、悪あがきしやがって。どォせその傷じゃナイフなんざマトモに振れないだろ? せいぜい 一回か二回が限界ってとこだなァ」 血塗れのダガーを脇に放りながらシャドウは余裕たっぷりの笑みを口元に湛えている。 シャドウに忠告されるまでもない。火箸を突っ込まれたように肩の傷は熱を帯び、その熱がシンの思考に霞をかける。 ――マズイ、このままじゃ…… じわじわと迫ってくる死の予感、そして焦り。今までとは違う状況のせいか、フリーダムと戦った ときの感覚が起こる気配もない。 右腕に力を込める。そのあまりにも頼りない感覚にシンはゾッとした。 「――どんな気分だ? 誰かに自分の命を握られてるってのは」 そう、まさに八方塞がりだ。 逃げ道は炎の壁に遮られ、助けを呼ぼうにもリサたちは壁の向こうでデスティニーも未だ戦っている。 自身の身体ですら利き手を八割方潰され、手持ちの武器もわずか。 そして今のシンに、この状況を打破することができるほどの冷静さは残っていなかった。 ――どうする? どうする? どうする!? 考えれば考えるほど沼に沈んでいくように思考が深みにはまっていく。 そのせいか、半ば意識が薄れてきた頭で先ほど浮かんだ疑問がシンの中で蘇ってきた。 ――なんでコイツは、すぐに止めを刺さない……? シンにとってはほぼ手詰まりのこの状況、ただ片をつけるだけなら一瞬で終わるはずである。 いや、何度も繰り返してきた攻防の中では明らかにその機会は複数回あった。最初の一撃のときもそうだったのだ。 狩場に追い込んだ獲物をいたぶるためというシンプルな理由も思い浮かんだのだが、シンには それだけはありえないという確信が何故かあった。 「ハン、なんだァ? 血を流しすぎて逆に落ち着いてきたか? つまらねェ、つまらねェなオイ」 大げさな動作でため息を吐き、シャドウは上体を前に倒したまま顔だけをシンへと向ける。 「まだそんな余裕があるなら仕方ねェ……腕一本いっとくか」 不自然な前傾姿勢からシャドウは再び獣の速さで駆け出した。 向かう先は当然シン、右手には高々と掲げられた歪なナイフ。 ――腕……! 迎え撃とうとシンも動き出すが、感覚が鈍く反応が遅れる。 狙いはおそらく左腕。だが先程から続いているように言葉で縛りをかけ、意識を背けたところで狩り取ることも十分考えられる。 これ見よがしに掲げられたナイフすら囮であるかもしれない。 またもシンは思考の迷路に惑う。それこそがシャドウの狙いであるのだが、それを悟ることが出来る精神状態ではなかった 「いただきだ」 シャドウの口の端が釣り上り、ナイフが時計回りに弧を描きつつ下段からシンを襲った。 シンとシャドウの決着が時間の問題と見た黒いデスティニーは視線をデスティニーへと戻す。 相も変わらず呆然と窮地に陥った主を見ていることに微かな苛立ちを覚えたが、それを一切表に出さず漆黒のアロンダイトを構え直した。 「向こうも直に決着が付くようだな」 聞こえているはずなのだがデスティニーに反応はない。声も届かないほどにショックを受けているようだった。 黒いデスティニーは失望したように息を吐き、まるで興味をなくしたように先程まで発していた気迫を幾分か薄めた。 呆気ない幕引きだ、と黒いデスティニーは胸中で呟いた。彼女自身は戦いに酔い狂うような性分 ではないのだが、動きもしない無抵抗な相手を破壊することに物足りなさを感じていた。 「……この程度で戦意を失うような半身ならば、早々に斬って捨てるのが最良か」 背中のスラスターが唸り声を上げ、広がった黒い翼から光の粒子が溢れ出す。 「――終わりだ」 分厚い壁を叩きつけるような音と同時に黒い影が疾走する。大剣の切っ先が瞬時に音速を超え、 並のMSならば避けられない一撃が半秒に満たない間に目標に到達する。 衝撃と共に地面が爆ぜた。鮮やかな芝と土が巻き上げられ、土煙が広がる。 ――だが、黒いデスティニーは失念していた。 自分の真価を。そして只の木偶と化したと思い込んでいた相手も同じ能力を持っていることを。 相手が、並のMSではないことを。 「何っ……!?」 地面に突き立てた刃が獲物を捕らえられなかったことを知った黒いデスティニーは初めて驚愕の 感情を宿した表情で周囲を素早く見渡す。 いつの間にそこまで移動したのか、地面に手足を投げ出していたはずのデスティニーが空中に 浮かんでいた。顔の向きと表情は変わらず、しかし真紅の翼から煌く光の翼を広げて。 「EBMか!」 叫びながらも黒いデスティニーは半ばまで埋まったアロンダイトを振り上げ、大地ごとデスティニーを切り裂いた。 だが不発、両断されたトリコロールカラーの影は蜃気楼のようにかき消えた。 舌打ちをしながら黒いデスティニーも翼を広げ飛び立つが、そこから光の翼が飛び出す直前に ミラージュコロイドが作り出した残像を引きずりながらデスティニーが折りたたまれたままのアロンダイトを叩きつけた。 「ぐっ!?」 かろうじて黒いデスティニーは右腕の実体盾で防ぐ。峰にあたる部分の刃によってアンチ ビームシールドに一条の傷がつけられた。 振り抜かれたアロンダイトはその反動で折りたたまれた刀身を展開し、発生器から光の刃を伸ばす。 構えは大上段、背に付きそうなほどの位置から真正面に振り下ろされた大剣はそれ自体の重量 に遠心力が加わり、瞬間的にではあるがMSサイズであればその名の通り戦艦をも両断しかねないほどの威力まで高まった。 黒いデスティニーは実体盾をパージし、両手の甲からビームシールドを発生させて頭上で交差させる。 二重のビームシールドに渾身の力を込めて叩きつけられたアロンダイトは阻まれたが、その 強烈な一撃によって生じた衝撃によって今度は黒いデスティニーが地面に墜落した。 ――不味い! 地面を一度バウンドするほどの勢いで落下した黒いデスティニーの身体は一時的に機能不全に陥った。 先程とまるで同じ、しかし立場は逆の状況。となればこの後の流れも自ずと定まるはず…… だった。 「――なんだと?」 自身が見た光景を信じられず黒いデスティニーは思わず呟いていた。 致命的な隙、絶対的な勝機を前にしながら、デスティニーはアロンダイトを放り捨て、シンとシャドウの元へと飛んでいったのだ。 瞬時に黒いデスティニーは理解する。デスティニーにとって、自身はただの障害物でしかないのだと。 「…………」 自由の利かない身体にありったけの力を込め、なんとか拳を握る。そうでもして誤魔化さなけれ ば湧き上がる怒りを抑えられそうになかった。 「まぁ、いい。まだ想定の内だ」 平静をつとめ抑揚のない声で呟いたが、固く握り締めた拳――爪が食い込んだ手のひらから光の雫が垂れていた。 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ <その価値は 2> ……時はシンが教会から離れる前に遡る。 「あ、デスティニーちゃんも来てたんだ」 「むぐ? ローラですか。あぐ、おひさしです」 一杯限定という条件の下、一口一口を噛み締めて味わいながらデスティニーはローラに挨拶を返していた。 「久しぶり。カレー私の分もある?」 「自分で用意するです。あ、おかわりの分を譲ってくれるなら私が代わりに……」 「行ってくるね」 にこやかに告げてローラは鍋の方へと走っていった。 「んぅ、足りない」 ぼてっと顎をテーブルの上に乗せてデスティニーは呻いた。 出来る限り長く持たせるためにゆっくり食べていたのだが、やはり彼女のキャパシティと燃費の悪さもあってそ の場しのぎにしかならなかった。 「む~……こうなったらマスターに実力行使、じゃなくて直談判して二杯目の許可を貰うしか」 のっそりと顔を上げると神父とシン、そしてシーラの姿が目に映った。しばらく三人で話しをした後、シンが二人 から離れていった。 「マスター?」 教会の敷地から出て行くシンを追いかけようと席から立ち上がったが、シンの表情を見て動きが止まってしまう。 「……マス、ター?」 すれ違いに見えたシンの顔は、今にも泣き出しそうな子供に似ていたようにデスティニーは感じた。 「おまたせー。シーラさんの分も用意してたら遅くなっちゃった……デスティニーちゃん?」 「どうしかたの?」 無言で立ち尽くすデスティニーの様子を見てローラとシーラは怪訝な表情を浮かべながら問いかけたが、それ に答えることはなくデスティニーは呆然とシンの背中を視線で追いかけていた。 「迷惑をかけてしまったかな?」 透き通った声に軽く戸惑いを覚えながらもシンは言葉を返す。 「いや、今はまだそれほどでもない」 そうか、と小さく笑いながら再び少女――レジェンドはティーカップに口を付けた。 先ほどの邂逅のすぐ後、シンはラ・ルナへと駆け込んだ。鬼気迫る表情で現れたシンにウエイターや客は怯え たが、レジェンドが自分の連れだと紹介したことで事なきを得たのだった。 「まさかあんなに急いで来てくれるとは思わなかったよ。姿を見せた甲斐があったかな」 あくまで余裕な態度を崩さないレジェンドに軽い苛立ちを感じつつも、落ち着いた声で本題を切りだす。 「あいにくそこまで暇があるわけじゃないんだ。こっちの用が済んだらすぐに出て行く」 「注文もせずにかい?」 「金はない」 そこでレジェンドが小さく吹き出した。 ――言うんじゃなかった。 後悔するも時すでに遅し、誤魔化すように水を飲むしかないシンであった。 しばらくの間うつむいて肩を震わせていたレジェンドだったが、顔が上がったときには元の余裕のある表情へ 戻っていた。 「……失礼、堂々と店に入ってきたものだからその答えは想像していなかった」 うるさそうに視線を外すシンにレジェンドはさらに言葉を続ける。 「それもデスティニーの影響かな? 厄介な習慣を学んだらしいが」 「知ってたのか?」 インパルスの時と同様にデスティニーのことを知らないと踏んでいたシンだったが、どうやら違うようだ。 「私に用があるらしいが、ちょうど良い機会だ。こちらも話がある」 聞くかい? とでも言いたげな視線にシンはわずかに逡巡し、 「……内容は?」 と聞き返した。 「私たちという存在について、とでも言っておこうか」 教会では子供たちが再び遊びに興じていた。空腹を満たしたことで活力を得た少年少女たちはあちこちを駆 け回り、賑やかにはしゃぎ回っている。 その様子を、デスティニーは離れた木陰で眺めていた。 普段の彼女からは想像できないほどに覇気のない姿だ。目はどこか空ろでどこを見ているのか定かではなく、 手足をだらりと投げ出している。 「……デスティニーちゃん、大丈夫?」 デスティニーの首が傾く。すぐそばで心配そうな顔をしたシーラが佇んでいた。何人かの子供たちからピアノの 演奏をせがまれていたが、それはもう終えたようだった。 「別に、なんでもないです」 誰がどう聞いてもなんでもあるような声音で話すデスティニーの傍らに座りながらシーラは問いを重ねる。 「ひょっとして、シン君のこと?」 小さな肩が震える。それからシーラは何も言わず、ただデスティニーの言葉を待った。 やがて、 「分からないんです」 という言葉が返された。 「……こういうとき、どんな反応をすればいいのか分からないんです」 おぼろげな表情で、デスティニーはそう呟いた。 「君は我々についてどこまで理解している?」 唐突にそんなことを聞かれ、シンは困惑しながらも今までの情報を整理して答えを紡ぐ。 「……古代魔法で召還されて、俺のイメージで今の姿で現れているってことは分かってるけど」 だがレジェンドは首を横に振った。 「そうじゃない。それはここに存在することのきっかけだ。『我々について』どこまで理解しているのかを聞いている」 繰り返し投げかけられた質問の真意を量りかねながら、シンは思い浮かんだことをそのまま口にした。 「これでもかってくらいよく食ったり寝たり……普通の人間とあまり変わらないってことくらいしか」 「まぁ、そんなところだろうな」 自嘲気味の笑みを漏らし、レジェンドは眼鏡の位置を直した。逆光のせいでレンズの向こう側が隠れる。 「我々は元を辿ればただの機械だ。意志もなければ生体反応もない。そもそも人間らしさというものを兼ね備えて はいない。それが何故人間の様に振る舞い、飲食を嗜み、喜怒哀楽を表現できるのか考えたことは?」 今度はシンが首を横に振る番だった。決して考えなかったわけではない、ただそれらを自然なものとしか受け 取れなかったのでそれほど気にしていなかったのだった。 レジェンドは告げる。 「イメージから生まれた私たちには個性という殻しかない。その中身を補うには模倣すること以外に方法はない」 ――それって…… シンの思考を読んだかのようにレジェンドの口の端が釣り上がる。 「そう、私たちは人間の模倣をしているにすぎない。たとえ飲まず食わず眠らずの日々を送ったところで死にはし ないし、ただ人間で言うところの空腹や睡魔という欲求の模倣が反応として表れるだけだ」 息を呑むシンの動揺を知ってか知らずか、さらにレジェンドは続ける。 「一見人間とそう差はないこの身体もただのイメージにすぎない。たとえどこかを損傷しても血は一滴も流れずに イメージの残滓が光となって消えるだけだ」 窓の外を馬車が横切り、光で覆われていたレンズの向こう側があらわになる。 「――我々は純粋な生物ではない。魔法生物とも異なる。もっと虚ろで、どうしようもないほどに儚い存在だ」 その瞳には、デスティニーやインパルスにあった輝きがなかった。 デスティニーの言葉を受けて、シーラはもう一度問いかけた。 「シン君が、辛そうにしてたから?」 ハッとデスティニーの顔が上がる。 「私も、ちょっとだけど見えたから……」 去り際に見せた苦しそうなシンの表情、シーラもそのことを気にしていたのだ。 「でもね、私たちにできることって待つことしかできないと思うの」 子供をあやす様にシーラは語る。デスティニーもまた親の教えに耳を傾けるかのように聞き入っていた。 「待つ、ですか?」 「そう。何か悩みがあってそのことを私たちに話さなくても、帰ってきたときにいつも通りに迎えてあげればいいん じゃないかしら」 不安な顔をしているのを見られても彼を困らせるだけだから、とやんわりとした口調でシーラは言った。 「……でも、それでも私は」 ――もし叶うならば、シンの力になりたい。 デスティニーはいつしかそう願っていた。 この世界のシンは新たな生活を手に入れた。裏切りと挫折、敗北に満ちた世界から解放されたのだ。 それなのに、まだ辛そうな顔をしていたシンの姿はデスティニーには耐えられなかった。 ……もちろん、どんな世界であってもそんなことは当たり前のように存在する。だがそれを理解し、妥協するに はまだ彼女はまだ若すぎた。 「ふっふ~ん、じゃあお姉さんがとっておきの方法を教えてあげるね」 突如湧いて出た声にデスティニーとシーラは思わず顔を見合わせる。 「話はぜ~んぶ聞かせてもらったわ!」 ひょっこりと木の幹からリボンを乗せた頭が飛び出てきた。あまりにも予想外な登場にデスティニーは転がるよう に木から離れてわたわたと起き上がった。 「ろろろろろローラですか!? 驚かせるのはやめてほしいです!」 満足そうな顔をしてローラは木から抜け出る。幽霊であるローラだからこそできる芸当だったが、被害を被る側 としては精神衛生上とてもよろしくないものだろう。シーラもリアクションを取ることすらできずに固まってしまっていた。 「シーラお姉ちゃんの言うことも分かるけど、ここは待ってるだけじゃダメ。何かしたいって思ってるなら行動あるのみよ!」 拳を握り力説するローラの迫力に気圧され、デスティニーは涙目になりながら頷くことしかできなかった。 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ <酔いどれMS娘> ――雀のさえずりが、聞こえてきた。 「う~ん……?」 瞼越しに差し込んできた光に顔をしかめながら、着物に似た服を着た女性はゆっくりと瞳を開く。 最初に目に飛び込んできたのは……大量の酒瓶。 米酒がほとんどだったが、その他にも様々な種類のラベルが貼られた瓶が部屋中に転がっていた。 「……そーいえば、昨日はプチ宴会だったわねぇ」 何の宴会だったかという記憶が微妙に飛んでいたが、たしか『今月の外出記録二桁達成』とかそんな感じだっ ただろうと適当に回想を打ち切る。 上半身を起こしながらはだけた服を直し、その部屋――その家の主である橘由羅はあくびを漏らした。 頭上の人間にはありえない位置に存在する耳をぴくぴくと動かし、床と身体に挟まれて凝り固まった黄金色の 尻尾を左右に振る。 亜人……その中でも希少種と言われる狐の半獣人、ライシアンである彼女特有の寝起きの癖だった。 「ちょっと早く起き過ぎたわねぇ」 窓の外に浮かぶ太陽を恨めしそうに睨みながら由羅は呟く。ちなみに陽の高さは正午を少し回った位置にあった。 「というわけで、二度寝ね!」 他に誰もいるわけでもないのにそう言い放つと、再び床にごろりと寝転がった。 この女、世が世なら所謂ひとつのニートと呼ばれる存在である。 そんな混沌とした和室のふすまが、唐突に開け放たれた。 「おねーちゃん! にどねしちゃだめなんだよー?」 「うぅん……メロディ? あと5分だけ~」 「もう! いっつもそーゆーんだから~」 怒りつつもどこか可愛らしさを残す少女が、髪から覗く白い耳と尻尾わずかに逆立たせながら転がった酒瓶を 大きな肉球の手で器用に集め始めた。 「ん~、そういえばあの娘は~?」 「ちいおねーちゃんはちょっとでてくるっていってたよ?」 「ふぅん、珍しいわねぇ。ま、アタシが言えた義理じゃないけど」 不承不承と言った様子で身を起こした由羅が愉快そうに八重歯を覗かせる。 「それじゃアタシも、愛しのクリス君やリオ君に会いに行こうかしら~ん」 「も~! そのまえにおへやのおかたずけしようよ~!」 ぷんすか怒るメロディに「アタシ酒瓶より重いもの持ったことないのに~」と言いながらも片付けをする由羅。 この女、世が世なら所謂ひとつのショタコンと呼ばれる存在である。 「……そういえば、もう一人の娘も最近見ないわねぇ」 そう呟きながら、由羅は天井――より正確に言うならこの家の二階の部屋に当たる場所を見上げていた。 ――同時刻、エンフィールド、さくら通りにて。 「……必要なのは全部揃ったか。予想外の出費もあったけど」 リストをしまい、片手にぶらさげた買い物袋をチラリと見る。 当初の予定では野菜と豆腐しか入らないはずのそこに、丁寧に紙で包まれた牛肉があった。 「肉屋のおっさんにうまく言いくるめられた気がしないでもないけど……まぁいいか、今夜は鍋にするかな」 今日は孤児院で遊んでいるデスティニーが知ったらはしゃぐだろうなと考えながら苦笑を洩らし、ジョート ショップへ続く道を歩く。 そこに、 ――谷間 谷間 ゴッド谷間 パイパイ! 「ブッ!?」 突如耳に届いた猥歌に往来のド真ん中で盛大に吹き出し、シンは辺りを見渡す。 「ん~、たまには街へ出るもんだね~。狐のねーちゃんにメロディもいいけど、そこらへんを歩く娘も捨てがたい。 例え毎日高級レストランで出てくるような料理を食べられたとしても! 時折無性にカップ麺が食べたくな るように!」 何の話だ、と突っ込もうにもその相手が見当たらない。シン以外にもその声の主を探す通行人がいないでもな かったのだが、誰もがすぐに興味をなくしたのか過ぎ去って行く。 しかし、シンはある予感からそれが誰の声なのかを確かめなければならなかった。 「さてと、んじゃまずは……そこの娘は76! あっちのは81! こっちの娘は78で隣の娘は83……んん? 違うね、形が不自然だ。パット着用とみなして75!」 何やら数字が告げられる度に周囲にいる女性の顔が強張り、あるいは真っ赤になってその場から逃げるように 立ち去って行く。 ――いったいどこに……? 探す。探す。探す。 喋りながら移動しているのか、声の聞こえる方に目を向けても何もいない。まるで化かされているような気分 だった。 「よし、ウォーミングアップ兼目の保養は終り~。ではでは本題の狩りへレッツ・ゴー……おやぁ?」 何かに気付いたような呟きが聞こえると同時に、じっと値踏みされるような視線を感じてシンは視線を上げる。 ――いた。ガス灯の頂点に、蒼い翼の少女。 右手に杯、左手に徳利を持ち、それほどスペースもないはずの場所に器用に胡坐をかいている。 顔を含めフリーダムに酷似しているが、、よく見てみればまったく違う。何よりもこの人を食ったような眼差 しは以前見た冷たさなど欠片もなかった。 フリーダムと似て非なるフリーダム、シンの中で思い浮かぶのはたった一つのMSだった。 オーブ侵攻、そしてメサイア防衛戦で戦った、ジャスティスとはまた別に因縁のある機体。 「お前……!?」 驚愕に顔を歪めるシンを見て満足そうに口の端を吊り上げ、ビシッと片手を上げる。 そして、 「や、おっぱいよー」 ――最低な挨拶を受け、シンは壮絶にズッコケた。 「ん? あれ? 通じない? くっそー、最近の若いのはちょっと昔のネタも分からないのかねまったく」 ケッ、と吐き捨てて少女は杯を一気に煽る。瞬く間にその中身を飲み干すと、眉間に深い皺を寄せながらも 満足そうに唸っていた。 「~~~~~~っ! くぁ~、やっぱ米のお酒はいいねぇ! 五臓六腑に沁み渡らぁ!」 「――っ、フリーダム!」 「ノンノン、それじゃマイシスタと同じっしょ。まぁ好きなように呼んでいいんだけどね、ストライクフリーダ ムが長いんならストフリでもS・Fでもいいし。あ、でもスーフリは勘弁な」 聞いてもいないことをベラベラと喋りながら、少女――ストライクフリーダムはひょいっとガス灯から飛び 降りる。地面に足が着くかという瞬間、重力を打ち消したようにフワリと浮かんでシンと目線の高さを合わせた。 「いやいや、でもいーいタイミングだ。ちょっと話したいこともあるから挨拶でもと思ってたもんで」 「……俺に何の用だ?」 「おっぱいの素晴らしさについて小一時間ほど語り合おうかと」 「…………」 「怖っ!? 軽いジョークなのにそんなに睨まなくてもいいじゃんか! 別にマイシスタみたくケンカ売りに 来たわけじゃないからその右手のナイフも何か隠してる左手も楽にしてくださいお願いします!」 ピクッ、とシンの眉がわずかに跳ねる。 腰に下げたナイフは当然として、左袖に仕込んだ投げナイフをいつでも出せるようにしていたことまで見抜か れていた。大げさなリアクションで後ずさってはいるが、どうにも芝居臭さが鼻についた。 どうする? と考えるシンだったが、相手の出方が分からない以上他に思い浮かぶ手段がない。仕方なく両手 を自然体に戻す。 「わかった。お前の話を聞く。ただしおかしな真似をしたらこっちも容赦しないからな」 「オーケイオーケイ、まぁ心配しなさんな。こっちも荒事は気が進まないから。あとデスティニーとかインパル スも呼んでほしいんだけど……それは後でいっか。ともあれ、ナイスな判断に感謝するよ」 そう言ってストライクフリーダムは手をシンに差し出す。その何の変哲もないように見える掌とストライク フリーダムの顔を見て、シンは訝しげに眉を寄せる。 「何のつもりだ?」 「ほらほら、こっちの話を聞いてくれるってことになったじゃん? 一応これでも感謝してるわけで」 「マジでマジで」言いながらニッと笑うストライクフリーダムは差し出した右手をそのままにさらに一歩進み 出てニッコリと笑う。 「ん」 「ん、って……ったく」 呆れながらもシンは渋々手を伸ばす。敵意もないようだし、握手するくらいなら問題はないだろう。そう考え ていた。 ――が、 「あ、ちょいと失礼」 そう言いながら、 目の前の少女は、 腰からビームサーベルを引き抜いた。 「え?」 そんな気配はまったく感じなかった。 だからこそシンは伸ばした腕もそのままに呆けていた。 振り上げられる光の刃、握手のために差し出されたと思われた手はシンの襟首を掴んで眼前へと引き寄せる。 絶対不可避の状況。コンマ数秒遅れで命の危機に気付いたシンは目を見開き…… 即座に真横に放り投げられた。 「わぶっ……!」 石畳の上を転がったシンは額を打った痛みで顔をしかめる。先ほどまでとはうってかわったストライクフリー ダムの態度に非難の声を上げようとして、 「なっ!?」 目の前の光景に、息を呑んだ。 口の端を吊り上げてビームサーベルで一撃を受けとめるストライクフリーダムと、 険しい形相でアロンダイトを叩きつけたデスティニーがそこにいた。 「……タイミングがいいのは大歓迎だけど、余計なトラブルは御免被りたいんだけどなぁ」 「あなたは! 私のマスターにいったい何をするつもりですか!?」 「お~、こわいこわい。でも今のところは話ひとつ以上の用はないよ。そんなわけで剣を納めてほしいとこなん だけどどーよ?」 「あなたは、あなたたちは……」 ストライクフリーダムの言葉には一切の聞く耳を持っていないのか、デスティニーは赤い翼を広げてさらに 大剣に力を込める。 「これ以上、マスターから何を奪うんですか!?」 その血を吐くような問いかけを、しかしストライクフリーダムは呆れたようにこめかみに指を押しあてて唸った。 「はぁ……健気なのも結構、忠義に厚いのも結構。だけど熱くなりすぎるのはいただけないね、もっと心に自由 を持たないとどうにもこっちの肩が凝っちまうよ」 溜息を洩らし講釈を垂れながら、しかし次の瞬間その目に鋭さが宿った。 「でも、ま……それでそっちの気が済むなら相手をしてやるよ。さぁ本気出してみな? いっちょ揉んでやるから」 「――――ッ!!」 その挑発で一気に沸点を超えたデスティニーは、声にならない叫びを上げてアロンダイトを強引に押し込んだ。 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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悠久幻想曲 2nd Albumを編集 ゲーム名 悠久幻想曲 2nd Album GameID Disc1 Disc2 Disc3 Disc4 Disc5 SCPS-00000 - - - - ゲーム名 悠久幻想曲 2nd Album the Best GameID Disc1 Disc2 Disc3 Disc4 Disc5 SCPS-00000 - - - - ・現在の推奨設定 吸出ツール Alcohol 52% 変換ツール PopstationMD Free GUI v7.1b 圧縮レベル マルチディスク(*1) GAME ID 変更しない CFWのバージョン 6.35PRO-B8 POPSのバージョン 6.35(Original from flash) ・設定 安定化 高速化 ・現在ある不具合、問題など 動いた人の喜びの声、動かない人の怨嗟の声(ソフトに関する事等フリーコメント) 名前 コメント すべてのコメントを見る 悠久幻想曲 2nd Albumの動作報告をする ↓表を編集する↓ [部分編集] 動作確認表 [吸出]Alchol 52%[変換]PopstationMD Free GUI v7.1b 6.39PRO-B8 6.35PRO-B8 6.20TN-D 5.00m33-6 不明 起動 クリア 起動 クリア 起動 クリア 起動 クリア 起動 クリア 6.39 6.35 6.20 5.50 5.00 4.01 3.90 3.80 3.72 3.71 3.52 3.51 3.40 3.30 3.11 3.10 3.03 3.02 3.01 3.00 不明 ・表の備考 6.35PRO-B8 5.00M33-6 ・関連情報 ゲームの評価 Amazonのレビュー...[続きを読む] 攻略情報 裏技改造 アイコン・解説書 セーブデータ PSP用 PC用(エミュレータ用) PSP←→PCへの変換方法 PlayStation Archive
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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ ――ここ数カ月の間で、このエンフィールドという街は穏やかながらも劇的な変化を見せていた。 元より遠方からの旅人や商人が来ることはあったが、最近では観光と称して別の物を見に来る者も多いようだ。 幼児にしか見えない少女たちが宙に浮くどころか空を自由に飛び回り、さらに自由に魔法――厳密に言えば 違うのだがここではあえてその認識のまま記す――を操るとなれば噂も広まるというものだろう。 この少女たちは召喚された精霊のようなものであり、自らの意思を持ち住人と生活を共にする姿が見られる。 一部を除き比較的友好的であることからすぐに人々もその存在を受け入れ順応していったようだった。 一方で、街の自警団は新たな対応に追われている。 少女たちは時に戦闘行為に走ることがあり、街中で騒動を起こすことも度々報告されている。 そのため周辺住人の避難や戦闘の鎮圧のための出動が増えているのだ。避難専門の部隊を編成しているという 噂もある。とある晩に起こった一人の少女が酔った勢いで暴れまわった事件が関係していると囁かれているが、 真偽のほどはさだかではない。 奇跡的に今まで死者は出ていないものの、巻き込まれて怪我をした住人も少なからずいたためこういった対応 も当然と言えよう。 ……こうした変化にも順応できている街と住人は素晴らしいと思う反面、今後についての不安を感じてしまう こともある。 先に挙げた案件を含めても、少女たちが起こした事件は大きく影響を残すことはなかった。 しかし、これから先もこの程度の規模で事態が収束するという保証はない。 この騒がしくも平穏な街に深い爪痕を残すような事件が起きないことを、心から祈るしかない。 ――エンフィールド新聞 記:アウトフレームD カオスたちの襲撃から早くもニ週間が過ぎた。 幸い見てくれよりも派手な傷ではなかったため魔法治療との併用のおかげですぐに仕事に復帰できる程度で 済んだのだが、魔法治療に対して否定的なスタンスのクラウド医師からは苦い顔を返された。 ――毎度のようにこんな怪我をされると医者でも困る。 まったくもって正論なのだが好きで傷だらけになっているわけじゃないという虚しい弁護だけはしておいた。 「――お? これはまたお久しぶりで」 「……ダークダガー?」 「いやんそんな他人行儀なフルネームなんて。私のことは親しみを込めて『ダークさん』もしくは『ダーク様』 でいいですよん」 「何の用だダーク?」 「ふおおおお!? 呼び捨てとかまるで恋人みたいな扱いを!?」 「なんでそうなるんですか!?」 「極端な奴だなコイツ……」 久々のさくら亭でのブランチタイムに唐突に現れ遠慮もなく隣の席に座るダークダガーを半目で睨みながらシンはソーセージをつっつく。何故だか分からないが、期待に満ちた視線が返ってきた。 「……なんだよ?」 「いえいえどーぞお気になさらず。欲を言えばこう端の方から咥え」 言い終わる前に口へ運ぼうとしたソーセージを隣の皿へと放る。「やったー!」と喜ぶデスティニーと対照的 にダークダガーは悔しそうな顔で舌打ちを漏らしていた。何故だか他の客の対応をしていたフォースも残念そう な顔をしていたが、その意味については考えないようにしておく。怖いし。 「で? 久々に会ったのはいいけど何の用だ?」 「用がないと会ったらいかんの?」 「そうは言わないけど……」 「まぁ用があって来たわけですが」 「……マスター」 「斬るなよ、店に迷惑だから」 アロンダイトに手をかけるデスティニーを制してシンは「さっさと本題に入れ」と促す。 「せっかちですな~。まぁいいでしょ。ちょっとした情報でもいかがです?」 「情報?」 「――私らの同族の話、とか」 イエローのバイザー越しに反応を楽しげに窺う視線が向けられる。デスティニーがハッとした表情で見つめて くる気配を感じつつ、シンは先を促すようにダークダガーを見つめる。 「ついぞ何日か前の話です。森の中で怪しい影を見た、という話があったもんで興味半分で探してみたんですよ」 情報元は定かではないが、ストライクフリーダムやレジェンドのことを考えれば森の中というのは納得できる 話ではある。彼女たちが襲撃を受けた場所も確か森であったはずだ。 「まぁ結局見つけられなかったわけですが、湖のおじいさんに話を聞いたんですわ」 「カッセルの爺さんに?」 意外な名前に反射的に聞き返す。あまりあの場所から離れない人物なだけにこの話の中で出てくるとは思わな かった。 「なんでも、夜中に湖の傍に人のようで人ではない何かを見たそうで。月明かりもなかったのではっきりとは 見えなかったようですが」 「湖、か」 「水でも飲みに来たんですかね?」 「さぁ、理由は分かりませんが……ま、そんなところです」 よっと、と椅子から下りたダークダガーはそのままスタスタと出口へと向かう。 「最近襲われたばっかと聞いたもんでまた変なのに絡まれないようにってー忠告ですわ、どうかお大事に」 「……今まさにその『変なの』が帰ろうとしてるわけだけど」 「HAHAHA! ナイスジョーク! HAHAHAHAHA!」 「マスター」 「投げるな危ないから」 フラッシュエッジを振りかぶったデスティニーを抑えつけながらダークダガーを見送る。 去り際に見せた「てへぺろ(・ω )」にやっぱ止めない方がよかったかもしれないと思いつつもなんとか理性で 踏み止まり姿が見えなくのを確認してデスティニーを解放した。 「……いったい誰なんでしょうね、その湖に来てたのって」 「さぁな。害がなえりゃ誰でもいいって言いたいけど」 口ではそう言いつつもシンの頭の中ではシャドウの影がちらついていた。デスティニーもあの黒いデスティ」ニーのことを思い出しているのだろう、珍しく表情を険しくしていた、 あれから街の外に出ること自体が少ないせいか、現れる気配がまるでない。だから襲われることはないと考え るのも早計なのだが、現状では人前に出てくることを避けているのは確かだろう。 ――ならば、今はどこで何をしているのか? 「なーに難しい顔してるんだよ。揃って似合わないにもほどがあんぞ」 振り向くとピークを乗り越えて疲労を溜めた顔のソードがいた。手に持った御盆でデスティニーの頭を軽く 叩きそのままシンの鼻先に突きつける。 「何かあったらアタシらに相談しろよな。いつでも力になってやるからよ」 「……あぁ、そのときは頼む。今は多分大丈夫だから」 「ふむ、大丈夫……か」 何か考え込むように呟くブラストの様子に違和感を覚えてどうかしたのかと尋ねようとしたシンだったが、 外から響いてきた鐘の音に思っていたよりも長居してしまっていたことに気付く。 「もうこんな時間か、いくぞデス子」 「はーい」 「それじゃ、これお代な。ごちそうさま」 「は、はい! あ、でも、あのマスター……」 「ん? どうかしたのかフォース?」 「いえ、えっと……なんでもない、です」 そう言いながらも視線を背けるフォースの視線の先を見やると、先ほど放り込んだソーセージがあった。 ……シンは気付かなかったフリをして店を後にした。 「なぁブラスト、さっきなんか言おうとしてたみたいだけど何を話そうとしたんだ?」 「気付いていたか……マスターに伝えるべきかどうか迷ってな」 「伝えるって……何の話?」 「我々の、第4のシルエットに関してだ」 「……あれは本気でどうにかした方がいいのかもなぁ」 「? どうかしたですか?」 「フォースの……いや、やっぱなんでもない」 どこか遠い存在のようになってしまったフォースに頭を抱えつつシンは街の広場を歩いていた。 エンフィールドの広場はその広大な敷地に見劣りしない程度に多くの人で賑わっていた。所謂ストリート パフォーマーから露天商、画家など各々の時間を過ごしている。今日は休日なのか家族連れも多い。 和やかな光景だった。そう、他愛のない平和な景色。それがどれほど価値あることなのか、シンは今さら ながら思い知らされていた。 ――ズキリ、と久々に古傷が痛む。それは自分とは縁遠くなってしまったこの風景のせいだけではなく…… 「おーっほっほっほ! おーっほっほっほっほ!」 聞き覚えのある馬鹿っぽい高笑いが響いてきたからでもあった。 「……なぁデス子」 「残念ですけど現実です……」 デスティニーもぐったりと嫌そうに視線は向けずに上を指差していた。どうやらまた高い所に登って見下して いるらしい。煙と何とやらは高い所が好きとはよく言ったものである。 「おーっほっほっほ! おーーーっほっほっほ!」 アピールの仕方を変えてきた。そろそろ何かしらの反応をするべきだろうと判断したシンはわざと声を張り 上げて告げる。 「よし! 帰るぞデス子!」 「はいです!」 「って無視すんなコラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」 精一杯の無駄な抵抗が不発に終わったことに少し落胆し――無駄なことと分かっていたのでそれほどショッ クでもなかったのだが――、うんざりしながら仰ぐように声の方を見上げる。 「……またお前らか」 「ハッ! スルーしてやり過ごそうたぁいい度胸してんじゃないか。調子こいていられるのも今日まで……」 「カオス! 地が垂れ流しのまんまだぞおい!?」 「あ、あらやだ……オホホホ」 取り繕った上品な笑みで場の雰囲気を変えようとするがすでに広場に響き渡るほどの怒声を上げてしまった 後では虚しいだけだった。傍らに立つガイアが無表情に肩をすくめているあたりフォローするつもりはないらしい。 コホンとひとつ咳を払い、カオスは改めてシンを見下ろす。 「お久ぶりですわね。傷はもういいのかしら?」 「あぁ、もうすっかりな。それで、そんなお節介なことを聞くために来たのか?」 「いえいえ、ただせっかく治ったそのお身体を今度こそブッ壊してさしあげようと思いまして」 にこやかに言うカオスに溜息をつきながら、シンは腰のナイフに手を添える。周りの人間も剣呑な気配を察し たのか慌ててどこかへと走り去っていった。正直手間が省けて助かる。 「……いい度胸だな。もううんざりとは言ったけど何度も襲いに来るっていうなら話は別だぞ」 「あらあら怖いですね。でも安心なさい、相手は別に用意しています」 スッとカオスが指差す方に目を向ける。 誰もいない。注意を逸らそうとしただけかと視線を戻そうとして。 ――ズン! 重々しい足音に地面が揺れる。 建物の影、その向こう側から何かが歩いてくる気配にシンの背筋に嫌な汗が流れる。 足音が続く度に何故かは分からないがシンの中に奇妙な予感が膨れ上がってきていた。 「マスター、下がってください!」 危険を察知したデスティニーがシンの前に立つ。だが、その言葉も耳に届くことはなくシンはじっとやってく る何者かへ釘付けになっていた。 ――そして、その姿が現れる。 身を包む色は漆黒。背丈はデスティニーの倍以上はあり、さらに背中の円盤状のバックパックに付いた巨大な 砲身がさらに全長にプラスされシンの背すらも超していた。 バックパックだけでなく全身に備えられたビーム砲はその少女が純粋なまでに『破壊』を行使することに特化 した存在であることが見てとれた。 無機質な瞳は何を見つめているのか定かではなく、目の前にいる自分たちすら見えているのか疑いたくなるほ ど何の色も映していなかった。 その姿、初めて見るというのにとてもよく知った……忌むべき名前がすぐさまシンの脳裏に浮かんでいた。 「――デストロイ」 その呟きに応えるように巨大な少女はゆっくりと手を掲げる。反射的にナイフを抜こうとして…… 「……がおー」 あまりに気の抜けたその声に、思わず膝を着きそうになった。 <次回予告> エンフィールドにやってきた破壊の化身 その凄まじき火力はデスティニーを圧倒し、長閑な広場を戦場へと変える 被害を広めまいと苦闘する少年、だがそんな想いも虚しきものと破壊の傷跡は刻まれていく そのとき、現れた少女は・・・? 次回、『三位一体』 ――悲しき運命を貫く衝撃が疾しる 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ ――木々の合間に穏やかな風が吹き込んできていた。 それを受けながら一人森の中に立ち尽くし、デスティニーはストライクフリーダムの言葉を思い出していた。 ――あの人が、負けを認めているもの…… 付き合いとも呼べない程度しか会っていない間柄ではあるが、あの性格は知っているつもりだった。 冗談であろうと自分の負けなどと言うような謙虚さを持つ相手ではない。 だからこそ、真剣にその意味を考える必要があった。 無駄だと言った。舞う木の葉を何枚取ろうとやり方にこだわらなければいくらでも取れると。 では、無駄ではないものとは何か。 ――風? 吹き抜ける風が梢を奏でる。気付けばデスティニーはその流れに意識を乗せていた。 不思議な感覚だった。どれだけスピードを出しても決して木や枝にぶつかることなく飛んでいるような気分になる。 どこまでも、どこまでも。 ――これって…… 見失いかけていた何かが再び見えてきた。さらに風と同化するよう意識を集中させる。 速く、もっと速く。 誰にも捉えられないほどに。誰にも追いつかれないほどに。 ……そして風に乗った意識が、一枚の葉が枝から落ちる瞬間を感じた。 「っ!」 光の翼を広げる。爆発的な推力に周囲の葉が舞い上がる。 ――距離、およそ300m。 先ほどまでやっていたような飛び方ではどうやっても辿り着く前に地面に落ちてしまう。 どんなに長く見積もっても落着まで10秒とかからないだろう 故に、デスティニーは迷うことなく決断した。 地を蹴り、飛翔。最初からスラスターを全開で吹かせながら目標の木の葉へと突き進む。 だが場所は森の中、1秒と経たず少女の前に太い枝が迫ってくる。 デスティニーはその枝に目を向けることなく、わずかに上体を横に傾けることでやり過ごした。 次の枝も、その次の枝も。最小限の動きで避けていく。 時にフラッシュエッジで切り払い、時に構わず枝を身体で弾きながら。 木そのものが立ち塞がったときはローリングで軸をずらし、これもまたギリギリでかわす。 スピードを極力落とすことはなく、数瞬ごとに目の前に現れる障害をことごとくクリアしていく。 ――彼女自身も初めて体験する飛行だった。 先ほど広がった感覚から得た情報を元に最短のルートを導き出す。 リアルタイムで微調整を行いながら、デスティニーはただ一枚の葉の元へ向かい飛翔する。 ――っ!? 距離を半分ほど詰めたところで目標を視界に捉えた。 落下スピードからより正確な落下時間を計測し、このままでは間に合わないことを悟る。 「EBMっ!」 即座にデスティニーは光の翼を最大まで広げる。 翼だけでなく全身を輝かせた少女の身体は、光の矢のように森の中を駆け抜ける。 「くっ、あっ……!?」 大木はかろうじて回避することはできるが、今度はほとんどの枝に激突してしまう。 白い肌に小さい無数の傷が刻まれ、身体中から放つ光と共に血が後方へ流れていく。 ――もう少し……! あと数十m。葉は地面からほんの数m上を舞っている。 さらにスピードを増す。身体のあちこちが痛むが気にかけてはいられない。 あと数m。落下まで、残り数十cm。 「あああああああああああああああああああっ!」 雄叫びを上げながら右手を伸ばす。 だが自らが起こす風圧によって葉は掌をくぐり抜けてしまう。 「あっ……?」 驚きに見開かれる瞳。スローモーションのように流れていく小さな葉。 そして、無意識のうちに伸ばした左手。 ――ゴガッ! 小さな葉を掴むために地面すれすれを飛ぶという無茶な行為が祟り、 ついにデスティニーは地面に身体を打ちつけてしまう。 慣性という法則から逃れることはできず、少女の身体は数度ほど地面をバウンドし、 背中から大木の幹に叩きつけられた。 「かはっ!?」 あまりの衝撃に声と空気を吐き出して、デスティニーは力なく木の元へ倒れ込んだ。 「あ、ぐ……」 途切れそうになる意識をなんとか繋ぎとめ、呻き声を漏らしながら損傷のチェックを始める。 ……身体のいたるところにできた切り傷と打撲傷。激突したことで内部もかなりのダメージを負っている。 しばらくはまともに動くこともできない。 いくらなんでも無茶をしすぎた。彼女の主人や姉に言われるまでもなく身をもってそれを痛感する。 未熟な腕で、無謀なことを思いつき、後先考えず行動を起こしてしまったツケだ。 それは甘んじて受け止めなければならない。 だが、 「やった、です……」 震えながら掲げた左手の中には、一枚の葉と自らの真価を掴んだ感覚が残っていた。 「おーおー、やればできるじゃないの」 仰向けに倒れたデスティニーを見ながら、ストライクフリーダムは口の端を釣り上げていた。 距離はおよそ600m。傾斜になっていることと腰かけたものの高さも込みやや見下ろす形であった。 「にしてもまーあんな傷だらけになっちまってさぁ。無茶するよ。ま、そういうとこもカワイイんだが」 最後のアクシデントと損傷の激しさは想定外ではあったが、 おおよそ予想通りの能力を確認できたことで一応満足ということにした。 デスティニーの真価であるそのスピード、CEにいた頃は急激な方向転換とミラージュコロイドによって発生した残像による撹乱で相手を翻弄する戦術を使っていたがそのために本来引き出せるはずのスピードが出せていなかった。 無論大抵のMSでは対応できないレベルではあるのだが、同等の性能を持つ相手などにも通用する とは言い難い。 故に、新たな戦術を生み出す必要があった。 今しがた見せたようなセンサーを最大限に生かして周囲の地形を把握し、限界ギリギリの速度を維持しつつ相手に吶喊する、というような。 もっとも素直に敵――悲しいかなその認識であるということは疑いようもない――の言うことをそのまま鵜呑みにするような性分ではないので回りくどい方法を取ったわけだが、まぁ結果オーライということにする。 しかしあのスピードはやはり凄まじい。改善前から速さはデスティニーの方が上だったのだから本来の性能を発揮できるようになった今、どれほど味わい深くなっているか…… 「おっと」 そっと口元に手を当てて歪みを直す。と、そこで腰かけていたものが蠢くのを感じた。 「お目覚めかい?」 「あ、う……?」 「ぐ……」 地面に降りて、痙攣している物体を振り返る。二匹のオーガーが血まみれになって重なり合った状態で倒れていた。 何故そんな怪我をしているのかは、ストライクフリーダムの持つバールの赤さが暗に語っていた。 「起きたんなら今から二つのことを言わせてもらおうか。まず一つ、お前ら今度から私のこと姐御(クイーン)と呼べ。んでもって今度から私の言うことには無条件に従うように、オーケイ?」 「な、何を勝手に……」 と一匹のオーガーが呻いたが、ストライクフリーダムが悲しそうな顔でバールを振り上げた瞬間に首を縦に何度も振った。 「よし。じゃあ二つ目だ。ちと聞きたいんだが、お前ら一つ向こうの山で集落作ってたオーガーだろ?」 その言葉に二匹のオーガーはぎょっとした顔で互いの顔とストライクフリーダムの顔を交互に見た。 大当たりの感触に満足げに頷きながら、ストライクフリーダムはにっこりと笑った。 「よかった。じゃあなんでこんなとこにいるのか教えてくれるかな?」 「い、いやだって言ったら……?」 ストライクフリーダムが残念そうに溜息をつき、バールに『遺憾の意』を書かれたシールを貼って振り上げたときには、オーガーたちは正座の姿勢でもげ落ちそうなほどの勢いで首を縦に振っていた。 ――その少女の姿を見たのは、いつ以来だっただろうか。 思えばずいぶんと長い間見てなかった気がする。 だから、以前と変わりない様子に安堵していた。 「ん? 何かあったか?」 「あ……いや、なんでもない」 眼鏡越しに見えた瞳に動揺して反射的に目を逸らす。 首を傾げながらもレジェンドは視線を先ほどまで向けていたものに戻した。 「さて、どうするかな。この本とこの泥棒は」 「あのー、泥棒ではなく忍者と……」 「黙れ」 「はい」 ちょこんと正座したダークダガーがレジェンドの鋭い眼光を受けてガクガクと震える。 空から撃ち落とされた挙句ドラグーンで四方を囲まれホールドアップされれば怯えるのも無理はないが。 「フォース、大丈夫か?」 「ま、まだちょっとフラフラするけどなんとか……」 振り向くと、おぼつかない足取りで歩いてくるインパルスがいた。 どうやら意識が戻ったらしい。 そのつたない足取りが、突然駆け足気味のそれへと変わる。 「で、コイツが盗んだって本はなんなんだ? ちょっと見せてくれ」 そう言うが否やソードはレジェンドが持っていた本を奪うように取り上げる。 先ほどいっぱい食わされたせいか少し気が立っているらしい。 「あん? これって……!?」 適当にページを開いたソードの顔が青くなった。 が、すぐにどんどん赤くなっていき、頭から煙を上げてぐらりと上体が揺らいだ。 「お、おいソード!?」 「……ふむ、これは」 倒れそうになったところでブラストが現れバランスを立て直す。 無表情でペラペラとめくられるページを後ろから覗き込み、ようやくシンもその内容がわかった。 「……なんだこれ?」 「見ての通り、ということだろう」 「うわー……うわー……」 そこには、筋骨隆々の男たちがパンツ一枚でくんずほぐれつ絡み合っている様が記されていた。 中には完全に素っ裸のままで抱き合ってるものもあった。 正直これ以上先を見たくはない。 そしてそれを淡々とした表情で読み進めるブラストも怖いが、顔を赤くしたフォースが何か期待に満ちた目でちらちらとこちらへ視線を向けてくるのがもっと怖かった。 「くっくっくっ……さすがのソード嬢もその歪みねぇ世界には免疫がなかったようで」 そして何故か勝ち誇ったように笑うダークダガーにちょっとムカついた。 「それで、何故これを盗んだのだ?」 本を閉じてブラストはダークダガーへと詰め寄る。 俯き加減で視線を逸らしながら、しどろもどろといった様子で少女は口を開いた。 「そのぅ、なんてーか……今年の夏に間に合うかなーと資料集めなんぞを」 「資料?」 「はい。まぁ二次創作とかそれっぽいものを描こうと……あ、ちなみにメインはそちらの御方で」 「なんで俺が!?」 「ど、どこで読めますかそれ?」 「ちょっとフォースさん!?」 瞳に妖しい光を滾らせたフォースが引っ込み、呆れた顔のブラストが再び表に出てくる。 「ざっと目を通したが、見ての通りの内容だ。他には何もない」 「本当か?」 「元マスターも確かめてみるか?」 ブラストを信じることにした。それはもう全面的に。 「ふむ、とにかくこれは図書館に返した方がいいな。シン、君たちは自警団が来るまでダークダガーを見張っていてくれ。本は私に任せてくれないか」 「あぁ、そうだな」 「いやー! 自警団はいやー!」 泣き叫ぶダークダガーを無視して立ち上がらせる。 が、そこで妙なことに気付いた。 ブラストが、眉間に皺を寄せて本を見つめていたのだ。 「ブラスト……どうした? 早くそれをこっちへ」 「断る」 差し伸べられた手から庇うように本を抱え、ブラストは険しい目でレジェンドを睨みつけた。 「お、おい……ブラスト?」 「……どういうつもりだ?」 「どうもこうもない。お前は信用できない。まだこの本に何か隠されている可能性がある以上な」 きっぱりと言い放った言葉に、シンは呆気にとられた。 フォースもソードも同じだったようで言葉を挟むこともできないようだった。 「先ほどダークダガーを落とした時、ずいぶんと良いタイミングの登場だったな」 「まさかそんなことで妙な疑いをかけているというわけか?」 「そんなこと、とは思わんな。我々が打つ手がなくなったところで現れる……偶然にしてもできすぎではないか?」 「考え過ぎだ」 「私はそうは思わない」 徐々に二人の口調が刺々しさを増していく。 これ以上は危ないと慌ててシンは口を挟んだ。 「ちょっと待てよ。突然どうしたんだよブラスト」 「そ、そうだ! 何考えてるのかさっぱりわからないけど、いくらなんでも無茶苦茶だぞお前!?」 「ブラストちゃん、なんでそんなにレジェンドちゃんに喧嘩腰なの?」 シンに続くようにソードとフォースも非難の声を上げる。 それが気に食わないのか、ブラストは苦い顔をしながらも一度大きく息を吐き、気を静めた。 「……私はレジェンドに対してどうしても納得のいかないことがある。だからそれまで信用できないというだけだ」 「まさかさっきのつまらん疑いで、というわけではないだろうな?」 レジェンドにしては珍しく険のある口調だった。だがそれに反応することなくブラストは言う。 「それだけではない。元マスター、覚えているか? フリーダムが襲ってきた日のことを」 「え? あ、あぁ……そりゃ覚えてるけど」 あまり思い出したくないことだったが、それ故によく覚えていた。 それと何の関係が……と思ったがすぐにフリーダムに襲われる直前にレジェンドと会っていたことを思い出す。 「あのとき、我々よりも元マスターの近くにいたはずのお前がなぜ姿を見せなかった? あの騒ぎに気付かないほど鈍い性分でもあるまい」 言われてみれば、たしかに妙だった。 あのときは考えもしなかったが、レジェンドがあの場に現れなかったのはおかしな話だ。 何せデスティニーとの特訓から戻ってきたばかりのインパルスですらすぐに気付いて救援にきたのだ。 ずっと近くにいたはずのレジェンドがフリーダムの襲撃を見逃すとは思えない。 「あの日は、シンと別れたあとすぐに街を出て山へ向かった。だから私がそのことを知ったのはすべてが終わっ てからだ」 「苦しい言い訳だな」 「事実だ。もっとも証明できるものは何もないが」 「なんで山に?」 「悪いがそれは教えられない」 問答無用で拒否されシンの中でも疑念が膨れ上がる。 だが同時に、この場でさらに疑われかねないことを言うだろうかという疑問も浮かんだ。 「……かなり強引だが、ありえない話ではない。それは認めよう。だが疑わしいことはまだある」 一拍置いて、ブラストは続く言葉を告げる。 「――フリーダムが元マスターに抑えられた直後に襲ってきたドラグーン、形までは判別できなかったがあれは 確かに『灰色』だった」 レジェンドの眉がかすかに跳ねる。それをブラストも確認したからか、さらに口調を強くして追及する。 「ドラグーンを使う機体は複数あれど、灰色のドラグーン使いなど私が知る限りただの一機しか存在しない! これでもまだつまらない疑いと言うか!? 答えろレジェンド!」 場が静まり返る。 さすがにソードとフォースも抗議の声を上げることはなかった。 シンもまた否定したいがその言葉が浮かばないままレジェンドの様子を窺う。 日光を反射する眼鏡のせいで、どんな表情をしているかは判別できなかった。 「……なるほど、言いたいことはよくわかった」 時間にしてみれば数秒、しかし体感時間では数分は経ったかという間を置いてようやくレジェンドが口を開く。 「だがブラスト、少々結論を急ぎ過ぎたようだな」 「なんだと?」 小さく溜息をついてレジェンドの顔が上がる。 ようやく窺えたその顔には、微塵の動揺も感じさせなかった。 「ドラグーンの色を見た、と言ったがそれを証明するものはあるか? それとも他に目撃した者がいるか?」 「それは……」 「フォース、ソード、シン、誰でもいい。ブラストと同じものを見たか?」 不意に話を振られたが、言葉に詰まる。あのときは防ぐこととフリーダムにばかりに集中していたせいでドラ グーンにまで気が回らなかった。フォースとソードも同じだったようで言葉を発する気配はなかった。 「ブラスト、お前はおそらくドラグーンに襲われているということを知ったとき相手が誰であるかも考えていた はずだ。そもそもドラグーンを装備している機体は少ない。当然私にも襲撃者の疑いを向けたはずだ。 さらに私には少し前まで近くにいたはずなのに姿を見せないというもうひとつの疑いまである。だから自然と私に対する警戒の度合いを引き上げただろう」 だから、と一呼吸置いてレジェンドは結論を述べる。 「――お前は、ドラグーンが私のものであると錯覚したわけだ」 「錯覚だと!?」 声を荒げるブラストをレジェンドは片手を上げて制する。 「もちろんそれで納得しろとは言わない。 だがあの場に現れなかったことで私への疑いを強めることだけは否定させてもらう。 お前たちにも身に覚えがあるはずだ。近くにいたが騒ぎを聞きつけたときにはすべてが終わっていた……ストライクフリーダムとシン、そしてデスティニーが自警団に捕縛されたあの夜のように」 ギリッ、と歯を食いしばる音が響く。 驚いて音のした方を向くと、ブラストがレジェンドを殺しかねないような目で睨みつけていた。 「とはいえ、この疑いがこの場で晴れることもないだろう。そこで提案だ、シン?」 「な……なんだ?」 「君があの本を図書館に返しに行ってくれ。その本に何かあるか聞いてみるのもいいだろう。そしてインパルスと私が自警団が来るまでダークダガーを見張る。 もっとも、インパルスは私への監視も含むだろうがな」 聞く限り、問題はなさそうに思えた。 ブラストの方に目を向けると、しばらく悩んでいたがやがて頷いた。 「決まりだな」 「あぁ。その……なんか悪いな」 「気にするな。私は気にしない」 ブラストから本を受け取り、シンは図書館へと歩き出す。 そしてその途中で、抱えている本の内容を思い出しゾッとした。 ――案の定、本のことについて聞いてみると、「あなた、こういうものに興味があるの?」といつもの八割 増しで冷たい視線をイヴに向かれることになった…… 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ <その価値は> どろり、と鍋の中身をかき混ぜる。 あまりにも巨大なソレからは湯気が立ち昇り、不気味にボコボコと煮立っている。その中身は底が見えないほ どに濁った液体で満たされており、時折固形物が浮き沈みしている。 鍋を覗き込む赤い瞳が細まった。小さな木杓子で中身を少しだけすくい取り、小さな皿へと移す。わずかに時 間を置いて匂いを嗅ぎ、皿の端から啜る。 舌の上で転がすように味を確かめ、小さく頷いた。 「飯ができたぞ!」 その言葉に遊んでいた子供が一斉にシンの方へと振り返り、有り余るエネルギーを宿したままカレーの煮え立 つ鍋の周りに殺到した。 「おせーぞシン!」 「もうおなかぺこぺこー」 「早く早くー!」 「マスター、私大盛り三杯で!」 などと口々に好き勝手なことを言いながらエプロンに三角巾という普段では想像も出来ない格好のシンのあち こちを引っ張り出した。 「だぁっ、おとなしくしろお前ら! 食器の用意と手洗いが先だ! うがいも忘れるなよ! あとデス子は一杯で我 慢しとけ」 そんなっ!? とうろたえるデス子を尻目にシンはエプロンと三角巾を外す。 今日の依頼はセント・ウィンザー教会での手伝いだった。孤児院も併設されているこの教会では定期的にアリ サが孤児たちの世話をしていたのだが、急用で出られなくなったので代理としてシンとデスティニーが出向いた のだった。当然ながら完全消費専門かつ生産性ゼロのデスティニーが料理というスキルを身に付けているはずも なく、軽くさくら亭での仕事を経験したことがあるシンしか料理の担当はこなせないのだ。 (……なんか無駄にいろんな技能を身に付けられるよなぁ、この仕事) シンは魔法を使うことができない。例の召還魔法の影響か、異世界の人間であるシンには素養がなかったのか、 いずれにしろ使えないことは事実だった。幸いこの世界での魔法の位置づけは車の免許のようなものであり、持っ ていないからといって特に不自由するようなものではなかった。 (ま、よく分からないものに頼るのも危ないしな) マリアの騒動を代表とした魔法の危うさを身をもって実感したシンにとっては、ある種の鬼門とも言えた。 「今日はありがとうございました」 その声でシンは現実へと引き戻される。いつの間にか神父が傍らに立っていた。 「いやぁ、アリサさんが来れなくなったと聞いたときはどうするかと頭を抱えたのですが、あなたのおかげで助かり ました」 「いえ、仕事ですから。子供たちにも久々に会えたんでこっちもちょうどよかったです」 エプロンを適当に畳みながらテーブルに陣取る孤児たち――その中に違和感なく溶け込んでるデスティニー も――を見やる。戦争の有無に限らず彼らのような人間はいつだって生まれる。シン自身も似たような境遇であっ たせいか、今ほど忙しくなるまで足しげく会いに来ていた。 「彼らも喜んでますよ、新しい友人もできたようですし」 ……友人、のくだりでシンはデスティニーに目を向けた。 「いいですか? カレーはまずご飯、ルーの順番に味わってから混ぜるです。それぞれきちんと味わって食べる のがマナーですよ」 どこのだ、と小さく突っ込んでシンは眉間を指で抑えた。なんか余計なことを吹き込んでいる気がしないでもな い。周りの子供たちはそんな話に耳を傾ける様子もなくカレーを食べ続けていたが。 「そうだ、神父さん。アイツみたいな格好した奴って見たことありますか?」 デスティニーを指差しながら尋ねるが、神父は困惑したように眉根を上げながら首を横に振った。 「いえ、見たことありませんね」 「そうですか……ありがとうございました」 あまり期待していなかったのか、シンはそれほど落胆した様子ではなかった。ここ数日の間で同じ答えばかり聞 いてきたのだから無理もないことではあるのだが。 「お兄ちゃ~ん!」 ん? とシンが振り返った瞬間、少女が飛び込んできた。突然のことで避けることもできず立ち尽くすシンの胸 の中へと少女は飛び込んで行き、 ――スルリ、と霞のようにすり抜けた。 「わっ、っとと」 そのままシンの背後で危うく転びかけた少女だったが、なんとか体勢を立て直して安堵の息を吐いていた。 「……ローラ、いきなり抱きつこうとすると危ないって言ってるだろ」 嘆息しながらシンは振り返る。視線の先でローラと呼ばれた少女は照れくさそうに笑っていた。 ――ローラ・ニューフィールド。 この教会に引き取られた孤児の一人なのだが、信じがたいことに――本人は否定しているが――幽霊なので ある。とは言っても食事もすれば眠りもする。太陽がどこにあろうと関係なく外を駆け回り他の子供と遊びもすれ ば色恋沙汰に目がないという妙にませたところもある。 ただひとつ、人と触れ合うことができないという点以外は年頃の少女となんら変わりはないのだった。 「む、な~んかおもしろくない反応。こんなカワイイ女の子を前にしてなんでそんなにそっけない態度なの? もっ とこう、ドキドキしたとかそういうのはないの?」 「ドキドキはしたぞ。危うく殺られるかと思った」 「なによそれ~!」 両手でシンの胸を叩くローラだったが、触れることができないので小さな拳は音も立てずにシンの身体を出入り していた。 「……ストップ、なんか見ていてあんまりいい気分がしない」 シンがわざとらしく口元に手を当てながらやんわりと押しのけるジェスチャーをするとローラは頬を膨らませつつ 身を引いた。 「ふんだ、もういいですよ~だ」 ノリの悪いシンに飽きたのか、そのまま未だ騒がしいテーブルのほうへと走り去っていった。 「まったく、相変わらずだなアイツ」 「良い子ですよ。明るく活発で、それに……強い子です」 聞けば孤児たちのムードメイカーでもあるらしい。親の温もりに焦がれることも多い子供たちにとっては良き友 人であり、寂しさを紛らわしてくれる姉代わりなのかもしれない。傍から見れば背伸びしているようにしか見えないが。 ――お兄ちゃん、遊ぼうよ。 ふとシンの脳裏に失ってしまった妹の声が蘇る。この街の温かさに古傷が反応し、小さく鈍い痛みとなって還っ てくる。 (……いい加減、慣れないとな) 思い出の残酷な面にわずかに顔をしかめつつ、シンはなんとか痛みを鎮めた。 「おや? シーラさん、お久しぶりです」 神父の言葉でシンはいつの間にか視界の端に入ってきていた少女にようやく気が付いた。 「シーラ」 「こんにちは、神父様にシン君」 長い黒髪を揺らしながら、少女――シーラ・シェフィールドは微笑みながら軽く会釈した。 エンフィールドの高級住宅街、ウエストロットに暮らす彼女はその例外に漏れず典型的なお嬢様である。とは言っ てもおなじくお嬢様(のはずの)マリアと比べると性格は正反対である。父親が指揮者、母親がプロのピアニストで あるシーラは箱入り娘として育てられているため物腰はおとなしく、礼儀正しいのだがその反面自己主張が苦手 であり、特に異性に対して意識し過ぎるところがあるせいか親しい人間以外ではうまくコミュニケーションが取れ ないこともしばしばである。 「久しぶり、ひょっとしてアイツ等にピアノを?」 「ええ、最近来れなかったから少し気になって。お母様にお願いして時間を貰ったの」 両親共に音楽に関わる仕事に就いていることもあり、シーラもまた一流のピアニストになるために日々レッスン を続けている。休みのときにもこうして教会にピアノを弾きに来ることもあり、孤児たちからの人気もあるのだった。 「これはよかった! 彼らも会いたいと言っていたのできっと喜ぶはずです」 「本当ですか?」 神父もシーラも嬉しそうだった。その様子を見て、シンは改めてこの街に暮らす人々の温かさを感じたのだった。 ――ふたたび、鈍い痛みを覚えるほどに。 「神父さん、買い出しに行ってきます。たしか蝋燭が切れかかってるんですよね?」 「え? えぇ、そうですが……よろしいのですか?」 仕事ですから、と言ってシンはエプロンを神父に渡した。 「あぁそうだ、シーラ。そのカレー俺が作ったんだけど、もしよかったら食べてくれないか? 後で感想も聞きたいし」 「う、うん。それはいいけど」 どこか緊張したように返答するシーラの言葉を聞き終え、シンは背を向けて歩き出した。 「――なんか、逃げてきたみたいだな」 後悔するように言葉を漏らしながらシンはさくら通りを歩く。蝋燭を売っている場所まではそれほど遠くはないの だが、その足取りは重かった。 「…………」 シンは考える。表面上は特に問題はないようにしているつもりだが、内面は二年前に戻ってしまったのではな いかと。自分の周りに線を引き、そこから先には他人を踏み込ませないようにしていたあの頃に。 (俺は、恐れてるのか?) 周りの人間が信じられないということではなく、 親しくなった人間を失ってしまうことを恐れるが故に。 「はぁ……参ったな」 これはシンが予想していたよりも深刻な問題である。気付いたからといってすぐに解決するようなものではなく、 むしろ気付いてしまったことでより意識してしまうという悪化の一途を辿ってしまっている。 どうしたものか、と頭を悩ませながらシンは通りを猫背で歩き続け、 ――何者かの視線を察知した。 (誰だ?) 辺りをざっと周囲に目を向けるが気配の元である人物は見つからない。その間でもシンは自身に向けられた視 線を感じていた。 (いったいどこから……!?) 捜す、捜す、捜す、 通行人、店の中、屋根の上に街路樹の陰、視界に入るものすべてを注意深く捜す。 「あ……」 そしてシンは発見した。 ――エンフィールドで人気の店のひとつ、高級レストラン『ラ・ルナ』、窓側のテーブルでシンに視線を向けたま まティーカップを傾ける小柄な少女。 わずかにウェーブのかかったアッシュブロンドのショートヘア、紺のフレームのやや大きめな眼鏡、全身に灰色 と紺の鎧を纏い、背中の対称な半円状の物体からは棘のように大小のユニットが取り付けられている。 知っている。そう、シンはこの少女のことを知っている。 今は遠く彼方の世界、彼と共に戦場を駆け抜けた仲間の愛機として。 「レジェンド……!?」 呆然と呟くシンの様子を見たからなのか、少女は窓越しにうっすらと微笑みかけていた。 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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悠久幻想曲3 Perpetual Blue 【ゆうきゅうげんそうきょくすりー ぱーぺちゅあるぶるー】 ジャンル シミュレーションゲーム 対応機種 プレイステーションドリームキャスト 発売元 メディアワークス 開発元 スターライトマリー 発売日 1999年12月22日 定価 【PS】5,800円【DC】6,800円 判定 賛否両論 ゲームバランスが不安定 ポイント シナリオ面はいつもの悠久ゲームシステムは非常に時間のかかるガチの育成ゲーキャラ別EDの為には攻略本必須 悠久幻想曲シリーズリンク 概要 ゲーム内容 シナリオ キャラクター 賛否両論点 問題点 育成パートの問題点 シナリオ関連の問題 UIの劣化 その他の問題 評価点 総評 その後の展開 余談 概要 「絆」をテーマにした「悠久幻想曲」シリーズ3作目、通称「悠久3」「悠久3PB」。 初代と2作目(+実質的前作のエタメロ)はいわゆるギャルゲー的な会話劇とイベントバトル(双六+RPGバトル)によりストーリーが進行するゲームで、「イベントを楽しむのがメインで戦闘はオマケ」とも言えるゲームバランスが遊びやすさにも繋がった名作だった。 (エタメロは訓練を怠ると最終盤が厳しかったが、「悠久幻想曲」以降はバトル難易度が抑えられ、シナリオが主軸のゲームバランスになった。) メディアワークスを中心にメディアミックスを見せ、外伝も2本作られ、3のナンバーをつけられた本作は期待の最新作として発売された。 舞台は前作までとは違うものへと一新され旧作との関連は、同じ亜人種が登場する程度で、ゲームシステムも戦闘育成メインへの一新したのだが…。 ゲーム内容 港湾都市シープクレスト。そこは世界中から人が集い物が行きかう、貿易港として急激な発展を見せる街である。しかし、それは同時に事件や事故にも事欠かないということでもあった。 シープクレスト保安局第4捜査室、通称ブルーフェザー。魔法、魔物に関連する事件を専門に扱う部署であったが、魔法事件自体の減少を受けいつしか保安局にとってはお荷物、魔法能力を持たず理解のない多くの市民からは不審物扱いとなっていた。その性質上隊員は希少な魔法の素質を持つ事が求められるものの、集まったのは個性的なメンバーばかり。 そこに、保安学校を卒業し魔法適性ありと判断された主人公ルシード・アトレーが、本人の意に反し室長として配属されたところから、この物語は始まる。 プレイヤーは主人公ルシードを操り3Dで描かれた事務所内を自由に動き回り、同じように動き回る7人の仲間とコミュニケーションをとったり訓練をしたりすることになる。 一日は8時~24時で、リアルタイムでは約10分程。 会話は「調子どう?」や「どう思う?」といった内容を選択し、次いで対象となるキャラクターを選択する仕組み。なので、AのキャラクターにBのキャラクターの調子を聞くことも可能。 キャラの能力は事務所内の訓練や当番、休憩などあらゆる行動をとることによって少しずつ上昇する仕組み。同時に魔法経験値というものが得られ、一週間に一回貯めた経験値を使って新しい魔法を習得可能。 魔法は攻撃、回復の他に味方のステータスをアップする補助、相手のステータスをダウンさせる障害、同属性の魔法の効果を上げ対属性の魔法の効果を下げる結界の5種類。 戦闘に参加するのは、主人公を含めた5人。主人公自身の訓練はもちろんのこと、室長として仲間それぞれの役割を考えて育成を行い事件に備えるのが基本的な流れとなる。 シナリオ 本作のストーリーは5つのチャプターと最終チャプターの6つに分かれており、主人公の選択肢によって分岐していく。 具体的に言うと、チャプター1からチャプター2A・2Bに2Aから3A・3B、2Bから3B・3Cという風に分岐する。分岐する選択肢はゲーム中で表示される。 チャプター5はB~Eの4つに分かれている為、全シナリオを正面から制覇しようと思ったら4周する必要があるが、システムデータや周回での何らかの持ち越しは存在しないためある程度はセーブデータの使い回しも可能。 チャプター5終了時に一定の条件を満たした場合、最終チャプターであるチャプター5Aに移行する。ベストエンディングを見るためにはここのクリアが必須。 ゲームの開始から終了までゲーム内で約1年かかるのだが、実際に自分でプレイするのは数ヶ月程。自分が選ばなかったチャプターはキャラにとっては体験済みとして進行する。 一つのチャプターは4つのメインイベントで構成されており、その合間に単発の任務イベントや登場人物の巻き起こすトラブルイベント、キャラごとに設定された生活イベントが設定されている。イベント総数なら約300とそれなりの量であり、生活イベントならほぼ毎日起こる。 なおメインイベントは最後必ず戦闘が発生するのだが、たとえ敗北してもゲームは進行し事件は解決する。ライター曰く「戦闘に負けた場合のストーリーを考えるのが一番大変だった」とのこと。この場合でもストーリーが展開されるので負けてなお精神的に余裕があれば見てみるのもよい。ただし、イベント自体は失敗扱いになる上、ベストエンディングを見る妨げになるのでできれば再戦した方がよい。 300あるイベントのほとんどを占める生活イベントは、特定の日時に特定の場所で対象キャラクターに話しかけることで発生する。その名の通り日常に関わるショートトークが交わされる。 キャラクター キャラクターデザインは前作までと同じくmoo氏が担当。 攻略対象は、ブルーフェザーのメンバーであるメインキャラ7人と街の住人であるサブキャラ3人。うち男性キャラはメインキャラ2人。 声優はかなり豪華で当時の有名所で構成されている。 主人公はゲーム中は声なしだが、後に発売されたドラマCDや悠久組曲では石田彰氏が担当した。 それぞれのキャラが、パラメータに影響を受けて日常生活を送っており、命令をしたり訓練に誘ったりすれば少しながら影響を与えていける。根気はいるものの、続けていくことで行動パターンを変えることができる。 各キャラクターには、HP/MPをのぞいたそれぞれの能力(筋力・器用度・敏捷度・耐久力・魔力・集中力・判断力・抵抗力)に、キャラごとの上限値が定められている。肉弾戦担当のビセットは魔法関連の能力の最大値が全て低く(*1)、バーシアは全てが平均並~平均以上に高い(*2)。 また、キャラクター(およびイベントで戦う敵)には属性の概念がある。火、水、風、地の4つがあり、火と水および風と地が100の属性ゲージを共有しており(*3)、訓練によって属性が少しずつ変わっていく。属性は各種魔法使用時や被弾時に大きな影響を与えるため、そこを見据えた育成も必要となる。 賛否両論点 ガチの育成ゲーへの方向転換 前作までは「シナリオを楽しむ過程でキャラ育成も行う」程度のゲームバランスだったが、今作は「キャラ育成の合間にシナリオを楽しむ」形にシフトしている。 シリーズの前作に当たる『エターナルメロディ』も育成要素が強めなゲームだったが、本作はその比ではない。育成に真剣に取り組まないと合間合間のイベントバトルで詰みかねないレベルである。 シリーズ経験者が悠久シリーズに望んでいたのが主にシナリオ方面であった為、「のんびりとシナリオを楽しめない」仕様は強く否定されることになった。 反面、「育成ゲーム」部分に絞ってみれば、非常にやりごたえがある上に、手間をかければかける分だけきちんと結果が出る。 ここに楽しみを見出したプレイヤーは本作に大きくはまることになる。 + 上記に付随するゲームバランスの詳細 攻略本必須のバランス 本作は攻略情報を全て把握していないとクリアが厳しいゲームバランスになっている。 このゲームではイベント以外のほぼ全てを訓練に充てるのだが、訓練する度にHPやMPを消費することになる。 そしてこの状態でイベントが発生して戦闘になった場合、ステータスは最大値ではなくこの消耗した状態で戦闘を行うことになる(*4)。 そのため、訓練をし過ぎていた場合は苦戦必至という事態になる為、ある程度余裕をもって育成をするか、イベントから逆算したスケジュール管理が必要。とはいえ、のんびり育成をしているとゲームクリアが厳しくなるのだが…。 また、戦闘イベントでルシード以外が戦闘不能になると翌日は強制的に休養となる。 訓練は複数のパラメータに影響を与え、一見数値が動かない項目もあるが上がったのが1未満であるからそう見えるだけで内部では微増しており、数百数千の各種訓練を積み重ねていくと累積はそれなりになる。 その事も考慮に入れておかないと、一部の数値が早々にMAXになって、訓練の効果が一部無駄になってしまう。 非命令時の訓練 キャラクターにはそれぞれの個性に見合うようにこのポイントの初期値が設定されている。つまり放っておくと一部分だけ特化した能力になるのである。このままでは困った性能になるため根気よく命令をしたり訓練に誘ったりして矯正していかなければいけないのだが…。 ルシードと同時に訓練できるのは1人まで。 朝指令を出しても1回しか実行しない 一定条件下では訓練の命令を投げ出す。 日常イベント発生時は絶対に何もしない。 日によっては誘っても命令しても理由もなく頑なに拒否する。 これらによって、なかなか思い通りに育成がいかない事も多い。また、上記の問題の中には攻略本に載っていないものもあり、自分のプレイのどこに問題があるのかわからず困ったプレイヤーも。 逆に攻略本に従うとプレイが困難になる面も。 攻略本では、フローネという魔術師キャラに対し「素早さや耐久力よりも魔法特化で育てておこう」と書かれているが、実際は敏捷をMAXにして、味方全体の攻撃力を大幅に上げる「リージャン」を習得した方が遥かに使い勝手がいい。 素早さや耐久の育成を嫌がる傾向が強く、いっそ切り捨てた方が魔法関係は強くなるのだが、そのままではターンが回る前にあっさり殺されてしまう事態に陥りやすいのでお勧めはできない。 何度もルシードと一緒に訓練させていると、訓練ポイントがあがって自然と自主的に行うようにはなるので矯正は可能ではある。 一応、これらを育成せずとも前衛キャラに「かばう」を使わせ、遅いスピードを活かして結界魔法担当にするという手もあるにはある(*5)。…が、それでも倒されてしまうことは多いし、そもそもきついゲームバランスの本作において「かばう」で増えるダメージも無視できない。 他にも、訓練の効果など攻略する上で重要なデータがゲーム中に表示されない、絆や機嫌に該当するステータスやイベントの履歴がわからないという不親切な設計。 かなりの手間はかかるが全キャラステータスMAXも可能。もちろんこの場合はただでさえ長い育成で、スキップ機能は使えなくなるが。 ボス戦の難易度 イベントで戦うボス戦の難易度が高い。ステータスが低かったり、イベント発生条件を知らないでHPやMPが低下した状態で挑んでしまったり、使いやすい魔法を覚えていなかったりすると、こちらが何もしないうちにほぼ壊滅状態にさせられる可能性もある等、前述の育成の難しさも相まって前作までとは打って変わって高い難易度を誇る。 ボスは全般的に高いHPと攻撃力を持っており、戦闘向きでないキャラなどは一撃で沈むことも。 一部のイベントは、こちら側だけ魔法を使えないという不利すぎる状態で戦闘になる事もある。また、フルメンバーで戦えないイベントもある。 ただし、魔法の役割分担や訓練でしっかりステータスを上げるなど、システムを把握し育成をきっちりこなしていれば中盤までは楽に勝てる。序盤の2~3戦ではひたすら主人公の敏捷値を中心に上げることでノーダメージ撃破も可能。育成度合いで多少揺れるが理不尽な展開になりがちなのは後半から。特に4-Aラストで出てくるプーチン一味は凄まじく強く、育成が足りないと高確率で負ける。 また、どんな敵にも最大HPに応じた割合ダメージを与える魔法の習得という抜け道がある。とはいえこれを習得したからといって楽勝になるわけではないが。逆にこれなしでのクリアに挑むのは中々に厳しい。 一応、負けてもストーリー自体は進むのだが、キャラクターEDを見るためには最終ルートに行く必要がありその条件の1つに一定割合でのイベントの成功 = ほとんどのボスの撃破が条件となっているので、勝利がほぼ必須となる。その上で最終ルートの最後に登場するラスボスに勝利しなければキャラクターEDを見ることができない。 そのラスボスにいたっては非常に高い能力値に加え、こちらを上回るサイクルで全体魔法を含んだ強力な攻撃を連発してくる。育成が足りないと開幕での瀕死や戦闘不能続出も珍しくない。全能力最大値のルシードでさえ数ターンしか持たない。 火の結界を併用することでラスボスも上記の割合ダメージ魔法を使った戦法が一応通用するが発動成功率は高くなく、MPの消費も馬鹿にならない上に相手は回復や打ち消しもしてくるので運が悪いと手詰まりになる。 ラスボスに対しては、ルシードとビセットにラスボスの弱点の火属性の物理魔法を覚えさせた上で、命中率と攻撃力を高め、補助魔法でラスボスの防御力を下げた上で殴るという手段もある。 ちなみに相当なやりこみ派が完璧な育成をすれば正攻法でラスボスを倒せるようにもなる。戦術例としては「ネディア」で全パラ低下、リージャン*2で攻撃UP、ヴァリダティでクリティカルUP、火の結界を張る、後は物理魔法インファーノ(*6)*2とコンクエスト(*7)*2を当てていくというもの。なお、この2人の専用物理魔法にあわせたかのようにラスボスは水属性である。この場合、他3人は完全にサポートにまわることになる。 余談だがエニックス発行の4コママンガ劇場(アンソロジー本)の楽屋裏コーナーで戦闘について取り上げている作者が多く、ボス戦自体の難易度も単純に高い事を示している。中には戦闘で勝てずにネタ出しに苦労していた作者も…。 一周のプレイ時間の長期化 育成ゲーにシフトした事でプレイ時間も延びており、プレイ方法によって差異はあるが最低30時間以上、長ければ60時間はかかる。 このプレイ時間の内訳も育成がほとんどであり、育成パート自体も単調なため非常に作業感が強い。 俗に言う「キャラクター攻略対象」が複数存在する為、キャラ個別EDを目指してシナリオの周回プレイをしたい所だが、その一周一周にとんでもなく時間がかかる。もちろん2周目以降の育成カットなどもない。 一応二人程度なら途中まで同時攻略を狙えなくもないが、焼け石に水である。 問題点 育成パートの問題点 訓練パートの会話内容が当てにならなかったり、変化が少なかったりと、作業感を強めてしまっている。 訓練中に本人の調子を聞くと、疲労時には「疲れた」と返してくる事もあるのだが、それ以外ではランダムであてにならない。 他人についてどう思うか聞いても、序盤から終盤まで育て方や絆の深さが異なっていても変わらず一定割合で返ってくるだけ。 攻略本によると「機嫌」という隠しパラメータがあるようだが、機能しているかどうか怪しい。 逆ギレされた直後にもう一度聞くと今度は上機嫌になっていたりするし、逆のパターンも起こる。 生活イベントの発生の有無が基本的にノーヒント。 特定日時に特定の場所で発生するのだが、数人のキャラがたむろしているならともかく、1人しかいない時は見逃しがち。 しかも事務所の外れでほんの一時しか発生しないようなものもあり、それらは対象キャラがなかなかやってこず見れる可能性が非常に低い。どうしても見たいなら対象キャラをストーキングし、発生場所にできるだけ近づいたところで進路を塞いで足止めをし時間が来るのを待つしかない。 また、生活イベントが発生した場合、発生場所に移動するor発生期間を過ぎるまでは訓練に誘っても絶対に断られる為、早めに処理しておかないと育成に響く。 スキップ機能を使用するといくらかゲーム内時間を早めることができるが、キャラクターの行動速度はそのまま。 つまりスキップすると訓練時間が減って成長が遅れるという困った事態に。 前作までのように、結果は変わらず時間の短縮機能を期待すると、むしろゲームを難しくしてしまう。 ゲーム内時間の1日も冗長。 イベントが発生しない普通の日でも10分程度はかかったり、テキストアドベンチャーパートの発生頻度に差があり、1週間以上発生しない等の細かい不満も。 基本彼らは担当する特殊な事件が発生しないと外出もできない。休日の外出も攻略キャラに会うのが目的であるため、自由な散策は一切できない。が、イベントパートでは日中の見回りや自由時間に外出をしている描写がある。 シナリオ関連の問題 絆の育みを謳っているにもかかわらず、メインシナリオの一部を除けばキャラの台詞と行動と間柄に1年以上が経過しても変化・進歩がない。連動や時期の影響が組み込まれていない。作中では大小様々な事件を乗り越えているのだが、何故かその経験がリセットされている。 例外はフローネのキャラバレと更紗の人慣れと休日が少しだけある程度。 休日イベントで深まった仲が他のイベントに影響を与えることはない。休日イベントではルシードも含んだ仲間同士の間柄に見直しが発生しているため矛盾が生じる。 様々な事件が起きるが伏線などの構成の巧みがない。単体のイベントでも複数のパートで続いているシナリオでも同様である。 事件の謎のタネ明かしも「そうか、△△だ。××には◎◎となるからな」といった具合に突然このファンタジー世界特有の仕組みで解説される。 ラストパートの謎も数話に渡って引っ張った挙句結局このパターンとなる。しかも重ね合わせである。 主人公達が情に流されて犯罪者を見逃したり隔離種族を匿ったり不法侵入したりする。 天才肌であるはずのゼファーが無能。物知りで頭の回転の早い頼れる参謀役のはずが、設定と結果でしか賢人として描かれない。 彼がその知能を発揮する場面は敵の弱点や製品を「知っている」と言う場面でしかない。プロセスの描写や論理的な種明かしによる知の描写自体がゲームにない。 日常でたまに披露する豆知識も「つまようじの折れ目は実は~」というように"実際にははっきりしていないこと"を堂々と断定して述べているというものばかり。このファンタジー世界では事実、ということだとしても、我々にとって身近な話を用いて堂々と語るのは混乱を招くからそれはそれでシナリオ作りの間違いである。 銃を持った犯人に羽交い絞めにされた女性を救うために作戦を立てるシーンという見せ場もあるが、その時に立てた作戦というのが 「俺が犯人を挑発して銃を人質から俺に向けさせる。その隙に犯人の腕をスナイパーに狙撃させてくれ」 というもの。しかも作戦指揮を執る人物に一方的に頼むと返事もきかずにすぐに現場に向かっていく始末。そしてその作戦が見事に成功するご都合主義展開。 UIの劣化 PS版は1つのプレイデータがメモリーカード1ブロックとなっている。 前作までは1ブロックで複数のセーブデータが保存できたが、育成データが重くなった為と思われる。 前作まであったシステムデータは存在しない。 その為、CG鑑賞等のおまけモードはなくなった。 プロローグのシーンカット機能がなくなった。 説明書には、最初のプレイでは出だしの回想をよく読んでください、二回目からは早送りしてもいいですよ、と書かれているが、前作同様にカット機能を付ければよかったと思うのだが。 ストーリーパートでのスキップも前作までと比べて明らかに遅くなっている。 その他の問題 エンディング条件がやや面倒で、従来のシリーズと比べ厳しい(手間をかける必要のある)条件に変更されている。一周のプレイ時間のせいで容易にリトライができないのも辛い。 前作は選択肢次第で真相にたどりつける上にすぐにリトライできるため問題はなかったのだが。 PS版では更紗というキャラとのEDで彼女の音声が再生されない。このことについて一切メーカーからの対応はなく攻略本にも書かれていない(*8)。 評価点 悠久シリーズらしいシナリオ 友情や絆を題材にした「仲間と一緒に苦難を乗り越えていく」といった王道的なシナリオは今作でも健在。 魔法犯罪を扱うという設定上、起こる事件はバリエーションに富んでいる。自分のアイデンティティに悩む魔導人形や魔物に育てられた少女との交流、魔法を使う怪盗との対決、果ては街全体をフライパンに見立てる魔物との戦いと様々。 固有名称無しでキャラクターも薄かった今までと違い、明確な主人公キャラであるルシードが存在する点はシリーズ経験者からは少々意見が割れるものの、事件を通して最初は嫌々ブルーフェザーに勤めていた主人公も変わっていく姿は上手く描かれている。 最終チャプターは1年の間に主人公がシープクレストで築き上げた全ての絆が収束する形となる。 育成ゲームの出来自体 難易度の高さで非常に敷居が高くなっているものの、やり応えのある育成ゲームとしてみればそれなりに出来は良い。ゲームとして破綻しているといった事もない。 手間を掛けた分だけ応えてくれる為、やりこみゲーとしての評価はされている。 総評 余りにも長時間の作業と攻略本必須のバランスの悪さ、システムの不備、これらにより一般の評価が芳しくないのもそうだが、シリーズを通して完成されていたシステムを大幅に変更した結果であるためシリーズファンの間でも評価が割れる結果となった。 シリーズファンであってもクリアを見ずに投げ出してしまうプレイヤーを大量に発生させてしまった現実は大きい。 前作までは普通にプレイしても一周あたり数時間でクリアでき、操作も手軽で育成要素もそれほど重要でなかった(*9)ため、このキャラクターの魅力を手軽に楽しめる路線であることを期待した層からの指摘は特に厳しい。 ちなみに一般的な評価は上記の通りだが、作業ゲーが好みという一部の特殊な層には受けている。 ある意味悠久幻想曲ファンにとって忘れられない一作になったと言えよう。 その後の展開 3の発売から数カ月後、今までのメインキャラクター総登場のお祭り作品『悠久組曲』の発売と言う展開を経てシリーズは完結の運びとなった。 制作会社スターライトマリーの経営破綻後、当時のスタッフの一部はその後設立したブリッジに移籍している。 悠久幻想曲シリーズという当時の核コンテンツを失ったメディアワークスはその後、『シスター・プリンセス』等へのメディアミックスにシフトしていくこととなる。 そして2009年4月頃のアスキー・メディアワークスのホームページ移転の際、旧メディアワークスの一部の公式サイトが閉鎖された。この中に悠久幻想曲シリーズの公式サイトも含まれている。 余談 本作も既存作同様2機種で発売され、PSとDCで機種による差がある。 解像度はDC版の方が上。 事務所内での移動においてDC版はアナログスティック操作でダッシュするのだが、PS版では X ボタン同時推しでダッシュとなっている。なお、本作では通常の歩くスピードはかなり遅い為、ダッシュが基本となる。 にもかかわらずPS版ではダッシュについて 説明書で触れていない 。 エモーショナルレスポンスという新システムが搭載された。相手の言葉に対し通常の選択肢ではなく「同意」「流す」「反対」の3つの態度を選びそれに基づいてルシードが返事をするシステムであり、ストーリーパートでたまに発生する。 「それ、普通の選択肢と同じじゃね」 。 ちなみに関連会社の発行する電撃PlayStationの評価では35点(100点満点中)を叩きだし、ファミ通のクロスレビューではPS版がオール6でDC版が7 7 7 6。ザ・プレイステーションの読者評価でも常に下位におり「面倒」「どうしてこうなった」というような意見ばかりであった。 ゲーム業界では「人気シリーズのシステムを一新」「2Dから3Dに」「三作目のジンクス」等という失敗フラグが語られているが、今作は上記の3つを立てしかも見事にフラグを回収してしまう事となった。 前作までとの関連性が全く感じられないため、「(会社が危なかったため、)悠久幻想曲シリーズとは関係ない作品として制作されていたものに急遽『悠久幻想曲』の名を付けることにしたのではないか」といった噂が流れていたこともある。 概ね21世紀初頭にネットの掲示板で交わされた。 シナリオの項目で触れたチャプター表記は攻略本記載のものでありゲーム内では区分け表現自体がない。順当に考えるなら5段階目のチャプターにはシナリオが5つ用意されていそうなものだが5-Bから5-Eと割り振られた4つしかない。また、6段階目の最終チャプターにはわざわざ5-Aの表記が割り振られている。現場で何かあったのかもしれないが真相は不明である。 ちなみに、本作のシナリオは外注でありスタジオオルフェが担当している。
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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ 赤い羽根から粒子を散らし、デスティニーは剣を押し出す。その高出力のビームソードで今にも両断されかね ない場所に立つ少女は、しかし口を大きく開けて笑った。 「ハッハー! 素直な反応がカワイイねぇっ!」 そして同時に刃を受けとめているサーベルを握る手の力をわずかに緩める。 真っ向からほぼ同じ力で止まっていた大剣が、まるですべり落ちるようにビームサーベルの刃に沿って地面に 叩きつけられた。 「っ!?」 「けど素直すぎるのも考えもんだ。ちょっとしたテクでされるがままにされちゃうぞ、と」 「さっきから……うるさいですっ!」 振り下ろした大剣を真横に薙ぎ払う。轟音を上げて迫る光刃を軽く避けながら、ストライクフリーダムは翼を 広げフワリと飛び上がる。 「積極的な子は大好きなんだけどなぁ。ちょっとハッスルしすぎじゃね?」 やれやれと両手を広げるストライクフリーダムを黙ってデスティニーは睨みつける。両手に構えた大剣を大上 段に構えた。 「……もういいです」 「お?」 「もう、あなたたちの目的が何なのかもどうでもいい。だから、」 そして、刃を振り下ろすと同時に眩い光の翼が広がった。 「――全力で、あなたを倒します!」 「なっ……おいデス子!」 EBMを発動させたデスティニーを目の当たりにしてシンは反射的に叫んでいた。 ∞ジャスティスを相手にしたときですら使わなかった全力を、今この場で出すつもりなのだ。 つまりそれは、本気でストライクフリーダムを倒しにかかるということ……! 「……うん、いいねぇ。ゾクゾクしてきたよ」 端から見ているシンですら肌を震わせるほどの闘気を発するというのに、それを直接叩きつけられているはず のストライクフリーダムはうっすら笑みを浮かべていた。 「酔いも空の彼方に吹っ飛んじまった。だってのに宇宙までスッ飛んで行きそうないーい気分だ」 低い声で笑いクルクルとサーベルを右手で回しながら、左手でビームライフルを抜く。 「さぁ、遊ぼうぜぇ!」 「その減らず口ごと……叩っ斬るですっ!」 疾風と残像を引き連れてデスティニーが宙を駆け、ストライクフリーダムはその初撃をサーベルでいなした。 「おっ、と……!」 それまで余裕の表情を保っていたストライクフリーダムから笑みが消える。次いで繰り出される一撃もなんと か防いだのだが、弾かれたサーベルが手を離れ、刃を失って地面に転がった。 「……なるほど、こりゃ厄介だ。なら!」 そう叫ぶと同時にストライクフリーダムの翼から蒼い部分が射出され、金色のフレームが姿を現す。 そして、フレーム部分から蒼光が溢れ出た。 「二番、いや三番煎じの! 光の翼ぁ!!」 「何っ!?」 「っ……!」 蒼い光の翼を見たシンは声を上げ、デスティニーは歯噛みする。 それはデスティニーのEBMと同じ技術を基に生み出された推進システム。あまりにも特徴的なその機構から 二人はすぐにそれを看破した。 「それが、なんだって言うんですかっ!?」 裂迫の気合いを発してデスティニーは再度突撃を仕掛ける。だが同等の速さを手にしたストライクフリーダム は難無くそれを避けると両手に持ったビームライフルを連射する。エメラルドグリーンの光弾が残像を貫いてい くが、そのことごとくを彼方の後方へ置き去ったデスティニーはアロンダイトを振り下ろす。 一撃必殺を狙うデスティニーと、その間隙を狙い撃つストライクフリーダム。 幾度も接近しては離脱する赤い翼と蒼い翼をなんとか視界に収めつつ、シンはどうすればこの戦いを止められ るのかと答えの出ない思考の迷路に迷い込んでいた。 ――やがて、もう何度目かも分からない激突の末に、一つの光が弾き飛ばされた。 「うわったったったぁ!?」 空中を転げるようにストライクフリーダムは危ういところで体勢を立て直す。 「セーフ……なんだけども参ったね、単純なスピードはそっちが上か」 うーん、と動きを止めて腕を組むストライクフリーダムに、デスティニーは容赦なく追撃する。 だが、 「うん、なら仕方ないね。小細工使わせてもらうよん」 「……っ、避けろデス子!」 シンの声で周囲に展開する複数の気配を察したデスティニーは真横にロールする。直後に複数の光がデスティ ニーがいた場所に走った。 「これは……!?」 謎の気配の正体を知ったデスティニーは知らず息を呑んだ。 ――ストライクフリーダムから射出された八基のドラグーン。一度その奇襲を受けたこともあるというのに、 デスティニーは重力下であるということから無意識の内にその危険性を失念していた。 「ペイバックターイム!」 「くぅっ!」 四方から放たれるビームと、変則的な機動を続けるストライクフリーダムの攻撃に翻弄されながらもデスティ ニーは空を駆ける。ミラージュコロイドによる残像が生み出すジャミング効果でかろうじて直撃を免れているも のの、その攻撃の密度は一瞬の気の緩みで瞬く間に蜂の巣にされかねないほどだった。 「こん……のぉぉぉぉぉぉ!」 ビーム砲を展開し、天を薙ぎ払うように照射する。 だが小さく動きの素早いドラグーンはすぐさまその軌道から退避し、撃墜を免れた。 「デス子!」 「えっ……?」 ドラグーンに翻弄されるがままのデスティニーの背後に、ピタリとストライクフリーダムが貼りつく。 ライフルはおろかサーベルの間合いにしても近すぎるその距離で、少女はさもおかしいそうにケラケラと笑っ ていた。 「注意一秒怪我一生、油断大敵ってヤツかな? ドラグーンにばっか目を向けすぎるとこーんな風になっちまう から気を付けなよ。もう遅いけど」 その嘲りを無視し、デスティニーはアロンダイトを横薙ぎに背後へと振るう。 だが不発……デスティニーの目はその影すらも捉えることはできなかった。 「速さは譲るが、小回りはこっちのもんだ。引き離すのは諦めな」 「誰がっ!」 左手で抜いたビームライフルで振り向かず背後に乱射するもまるで当たらない。相手の姿をまるで見ることの 出来ない恐怖に、徐々にデスティニーの精神は蝕まれていく。 「くっ……!」 焦燥感に駆られながら、デスティニーの頭には彼女のマスターのことが浮かんでいた。 訳も分からずこの世界に飛ばされ、その傷ついた心にはあの敗北の記憶が抜け落ちていた。 そんな彼に、愛想笑いを浮かべながら近づいてきたこの少女…… 「絶対に……許せるもんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 再びアロンダイトが弧を描くが――不発。 相も変わらずデスティニーの背後にピタリとくっついているストライクフリーダムはやれやれと嘆息し、つま らなそうに口を開く。 「ここまでかな……まぁそこそこには楽しめたけど、これで終わりさ」 デスティニーの背筋が凍る。こんなにもあっけなく、あまりにも唐突に、終わってしまうのか? いやだいやだいやだ、そう強く願っても喉元に刃を突きつけられたように動けない。 動けばそこで終わる、無意識のうちに身体がそう確信していた。 「それじゃ――いただきまぁす」 そしてストライクフリーダムは両手を伸ばし…… デスティニーの胸の装甲の隙間に突っ込んだ。 「―――――――――へ?」 呆けたようにデスティニーは自分の胸を見下ろす。 脇腹あたりから潜り込んだ小さな両手が少しずつ胸部の中心へと進んでいっている。わずかな隙間も強引に ではなく広げていきながらじわじわと進むその様に、デスティニーは先ほどとは異なる悪寒に襲われた。 「なっ……ななななな何をするですかっ!?」 「ん? 「いっちょ揉んでやる」って言ったじゃん」 「そのままの意味で!?」 「そのままの意味で」 しれっとした顔で答えるストライクフリーダムにしばし呆気に取られたデスティニーだったが、迫る危機が別 のものに変わったことに気付いて慌ててその手を引き剥がしにかかる。 「は、放すです!」 「ムリー、そしてムダー。っと、ここかな? うりうり」 「やっ……!?」 背筋を駆け抜けた感覚にデスティニーの身体がビクリと震えた。その反応に確かな手応えを感じたストライク フリーダムの口元が歪み、さらに複雑な動きも織り交ぜる。 「やっ、あ……やめっ!」 「やめ、何?」 「あ、う……」 耳まで赤く染め上がったデスティニーの顔を楽しそうに眺めながら舌舐めずりをし、これでもかと言わんばか りに激しく責め立てる。 デスティニーの息は乱れ、胸部装甲が蠢く度に四肢が震える。幾度目かの責めの中でその手からアロンダイト が滑り落ち、石畳に突き刺さった。 「ふむ、感度は良好。抑え付けられてたから大体しか分からなかったけど、こりゃ中々の逸品だねぇ」 「や……やめて、くださ――」 「ダメー」 目尻に涙を浮かべて懇願するデスティニーに無情な言葉を投げかけ、左手を胸から離して装甲の一部を弄る。 バチン! という音が響き、デスティニーの胸の装甲が弾けるようにパージされた。窮屈な鎧に包まれていた 双丘が解放されたことで揺れ弾み、それを見たストライクフリーダムは目を見開く。 「ん~、マーベラス……人間で言うなら86、いや87はあるね」 もはや隠すのは薄いインナー一枚のみになった乳房の輪郭に沿うように指を這わせる。もはや抗う気力すらも 刈り取られたデスティニーは痙攣するように震えるだけで抵抗の素振りすら見せない。 「すっかり出来上がったねぇ。けど、まだまだこれからだよ?」 「ひっ……!」 「怖がらない怖がらない、おねーさんに全部任せなさい。おっπ紳士は優しい初めてをプロデュースします。 そんなわけで、おかわりいただきまーす!」 そう叫んで、ストライクフリーダムはデスティニーの胸を背後から鷲掴みに…… 「――って、何をやってんだよお前はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」 「おぅっと」 あまりにもあんまりすぎる展開にそれまで呆然としていたシンだったが、ようやく我に返った瞬間袖に仕込ん でいた投げナイフをストライクフリーダムに向かってブン投げた。 それをヒョイと避わしたストライクフリーダムは目をぱちくりさせていたが、すぐにむくれた顔でシンを睨み つける。 「あっぶねーなぁ。いきなり何すんのさ」 「そりゃこっちのセリフだ! 往来のド真ん中で何やらかしてんだよ!?」 「日課のπタッチを、慣らし程度に。今から生本番」 「それ以上やったらいろんな意味でマズイだろ!? さっさと降りて来いこのバカ!」 「ちぇー」と呟きながら渋々ストライクフリーダムは地面に降り立つ。解放されたデスティニーは自力で立つ こともできないのか、自身の身体を抱くように胸を隠して膝をついてしまっていた。 「んー、いい乳揉んだ!」 満足にそうに背筋を伸ばすストライクフリーダムをとりあえずは放置し、シンはデスティニーに駆け寄る。 「う、うっ……」 「デス子! 大丈夫かおい!?」 震えながら涙まで流すデスティニーに呼びかけてみるも反応がない。相当ショックを受けたらしい。 「フフン、アタイのテクにかかればどんなにお堅い娘もイチコロよ」 「いいから黙ってろお前はっ!」 勝ち誇るストライクフリーダムに怒鳴り返すシンだったが、その瞬間デスティニーの口から漏れた言葉に 動きを止めた。 「――ま、マスターにしか触らせたことなかったのに……」 …… ………… ……………… 一迅の風が、冷たく吹き抜けた。 「……え? あの、お二人はそういう関係? それは、あー、そのー、ごめんなさい」 「謝るな! 否定しづらくなる!」 「で、で? 二人はどこまでいったのかな? どこまでイッたのかなぁ!? うは~! ヤバい! 私のロマン スがもう止まらねーーー!」 「うるさい! 近づくな! 鼻血を出しながら近寄るなーーーーーー!!」 ボタボタと赤い血を撒き散らしながら詰め寄るストライクフリーダムを押しのけようとするシンだったが、 遠くから響いてきた鐘の音に身をすくませた。 「むっ、自警団か。急いでズラかろうぜ旦那! とりあえずはすぐそこまで!」 「何勝手に仕切ってるのお前!? っていうか待てよおい! デス子、悪いけどおぶってくぞ!」 一目散にさくら亭に逃げ込んだストライクフリーダムを目で追いかけながら、デスティニーを背負い散らばっ たパーツを拾い上げてシンもその後に続いた。 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ